2011年5月5日木曜日

再戦の面白さ/難しさ

ILの今月号に非常に興味深い話が載っていたのでご紹介。知的に超面白いと感じ、また今後始まるNCAAトーナメントを見る上で非常に示唆深いと感じたのと、日本で今後リーグ戦に挑んで行く現役の選手/コーチ/スタッフの皆さんにとっても得る物があると感じられたので。

リーグ戦、そしてプレーオフと戦う中で多く発生する、「再戦」/「リターンマッチ」に関する分析と考察。一言で言うと、NCAA Lacrosseに於いて、特にプレーオフでは極めて高い確率でリーグ戦での再戦が行われる。そして、そこでは、戦力拮抗も相まって、一度目の対戦と逆の勝敗になる確率が非常に高い(4割超)。そして、コーチ/選手にとって、この再戦をどうマネジするかが非常に重要な肝になってくるという話。

日本代表の大久保さんの話

'08年にNCAA Final Fourを見に行った際に、日本代表監督の大久保さんらとご一緒させて頂く機会があった。その中で大久保さんが仰っていた話で非常に印象に残っていたのが、WLCに於いて、「二度同じ相手に勝つ事の難しさ」だった。

日本代表が接戦を演じる相手として、EnglandやIroquois、そして昨年の大会からはAustraliaがあるが、結構起きるのが、予選リーグでは勝ち、順位決定戦で負けるというケースだと仰っていた。実力が拮抗する中で、初戦は相手が油断している中、こちらも高い集中力で、十分に戦略を練って勝つ事が出来るケースがある。が、一方で、二試合目になると、無意識にメンタルに油断が生じたり、戦術的に勝ったこちらは大きく変更/修正するのが難しく、一方で負けた相手は謙虚に大きく修正を掛けて挑んで来る。結果として、一度目に勝った相手に「あれ?こんなはずじゃなかったのに...」と負けてしまう事があり、また裏を返すと同様に負けた相手に対して二戦目でコロッと勝ったりして、周りから見ているファンからは理解されにくい面もあると仰っていたと記憶している。

今回、正にその話を真っ正面からゴリッと掘り下げてくれており、更に一歩深く突き詰めてくれていたので非常に興味深かった。

ファクト
  • 16チーム参加の現在のNCAA Tournamentの形式になって以降のstatsを見ると...
  • 全120試合中48試合、つまり40%が再戦
  • また、Final Four(準決勝/決勝)に限って見ると、24試合中17試合、つまり70%が再戦
  • そして、この数字が結構びっくりなのだが、何と、それらの試合で、一戦目に勝ったチームが二戦目にも勝ったのは、48試合中27試合、つまり、たったの56%。これは結構衝撃だ...一試合目に勝ったからと言って、次の試合に勝てる確率は実際ほとんど50-50っていう。一試合目の結果は何の参考にもならないって言う。
  • 本来、一試合目に勝ったチームの方が当然単純に「強い」事が予想される訳で、もっと高い確率で再び勝ってもおかしくない。より差の大きい日本の関東リーグ戦なんかではその傾向は強いんじゃないだろうか(もちろん去年の東大−早稲田のようなケースがあるので一概には言えないが)。ところが、これはほとんど「半々」に近いと言う事。
  • 実際には結構大きな地力の差があって二試合勝ってるケースもあるだろうから、そういうケースを排除し、戦力が拮抗しているケースだけを取り出して見ると、恐らく、「一試合目に負けたチームの方が二試合目に勝つ確率の方が明確に高い」という現象が起きていると言う事。これ、結構恐ろしい話だ。
以下、その背景にあるメカニズムとして記事で紹介されていた点。

1. メンタル
  • 勝ったチームが無意識に油断してしまう事、そして、負けたチームが臥薪嘗胆で雪辱に燃えてより高い集中力とセルフイメージで挑んでくる事
  • 特に勝ったチームが「まー、一度勝ってるから、俺らの方が強いっしょ?」と油断するメンタル、所謂「hang over effect」が大きい
  • 特に、二試合目で接戦になったとき、そして劣勢になった時に、前回負けたチームは「俺たちはもう一度これを経験している。失う物は無い。今度こそ勝ってやる」と大きなセルフイメージで挑めるのに対し、勝ったチームは「あれ?こんなハズじゃないのに?あれ?何で負けてるんだ?」と大きな揺らぎが生じ、立て直せなくなってしまう
  • 去年Armyにリーグ戦で圧勝しておきながら、トーナメント一回戦の再戦でまさかのupsetを喰らったSyracuseのGallowayも、再戦がプレッシャーであるとともに、油断が有ったと語っている
  • また、決勝でDukeに最後の最後で破れたNotre Dameも同様にシーズン初期の試合でDukeに一度勝っている。守護神のScott Rodgers曰く、「一度派手に勝っていたので、『行けるっしょ』という慢心が正直有った」と語っている
2. 戦術の修正
  • 負けたチームは再戦に向け、ビデオを見直して大きく戦術を変えて来るケースが多い。ペースを変えたり、Zoneにしたり、スライドのルールを変えたり、メンバーやポジションを変えたり。これが大きな効果を生むケースが多い
  • 一方、勝ったチームのコーチが頭を悩ますのがここらしい。一度勝っている、一度勝てる事が証明されているが故に、大きく変える必要を感じられない、変える勇気を持てない、または、仮に変えようとしても、チーム全体がそれを本当に本気で実行出来ないというジレンマが生じるとのこと
  • 昨年のPlay off一回戦でStony Brookに破れたDenverは、レギュラーシーズンにSBに一度勝っていた。その際はSBは得意の速いペースで捩じ伏せようとし、Denverはそれに対応して一度勝利。Denver HC Bill Tierney曰く、SBはプレーオフでは意図的にペースを抑え、ロースコアの展開でDenverにリベンジを果たしたとのこと。
  • 「例え勝っても修正しなくちゃいけないとコーチも選手も頭では解っている。だが、一度勝った相手に向けてどんなにコーチが大胆に戦術を修正しようとしても、気づけば無意識に選手達は同じ事をやってしまっている。それだけ勝って尚変化することは難しい」(Tierney)という言葉がリアリティを突いている。
3. 選手の入り繰り
  • 怪我で主力が離脱して大幅戦力ダウンするケース(今年のUNCの上級生MF達、HofstraのMF Serling、PrincetonのAT Chris McBride、VirginiaのDF Lovejoy辺りが思い浮かぶ)
  • 逆に怪我から復帰するケース
  • そして、下級生が急成長してシーズン後半に主力にのし上がって来るケース
  • 去年のDukeの決勝で、リーグ戦で得点源だったMax QuinzaniとNed Crottyが封じられる中、プレーオフで頭角を現したSchoeffelがstep upし、勝利を導いたという例
  • 今年のUNCなんてムチャクチャ当てはまるだろう。シーズン初期は全くぎくしゃくしてた1年生軍団が、後半になって急カーブで成長してNCAA上位クラスの選手/チームになりつつある。(ちと遅かったけど...)
4. 環境要因
  • Home & Away。会場に対する慣れなど。Syracuseの本拠地Carrier Domeの激アツのファンと異様な雰囲気は有名。
  • ESPNでの全国ネットでのTV放映で緊張したり、逆に奮起したり
それらを踏まえての再戦に際しての心構え
  • NCAA Div 1で優勝争いをしようとしたら、再戦は必須だと言う事を受け入れる。再戦出来ると言う事は、まだそのシーズンで勝ち残っていると言う事、強いチームであると言う事。(ND '10 G Scott Rodgers)
  • 一試合目の勝ちなんて何の意味も持たない。ちょっとパイプに2-3本シュートが当たっただけ、グラウンドボールの転がりが運良かっただけ、それらがちょっと変わるだけで勝敗なんてどうとでも転び得る。一つ目の勝ちは何も意味しないと割り切ること。大事なのは、結果としての勝敗やスコアだけじゃなく、その裏に積み重ねられた個別のstatsをきちんと見て、本当のパフォーマンスを見る事。「あれ?よく見たらGBとFOじゃボロ勝ちしてんじゃん...」とか「シュート数じゃあ圧勝している。てことは成功率だけ上げりゃいいのね」という示唆が見つかるので(元Maryland HC Dave Cottle)
僕らにとっての示唆
  • 上記の通り、勝っても一切奢らない。そんなのその時の環境要因を含めたいろんな変数がたまたまハマったからそうなっただけと言う事を忘れない。勝敗だけじゃなく、裏にある真のパフォーマンスを見る。
  • で、一度勝った相手に対しても正しいリスペクトを払い、正しい準備をする。必要であれば大胆に戦術変更することも厭わない。試合中にやられそうになっても揺らがない。んなもん過去の事例からも予測された事なので。
  • 仮に一度負けた相手であっても、ひよる/ビビる必要ゼロ。しっかり修正して挑む。
  • シーズンを通しての若い選手の成長/台頭を促す。若い選手はそれを目指して、例えシーズン初期に試合に出られなくても、活躍出来なくても、シーズン後半に逆転出来るので、引き続きトップスピードでガンガン成長する
  • 故障とリハビリをチームとしてしっかりマネジする
みたいな感じだろうか。

今年のプレーオフでの再戦の見所
  • 一番きな臭いのが、Syracuse-Notre Dameだ。先週末の試合ではCuseが力で勝った。が、間違い無くNDがDFを中心としてあらゆる修正を掛けて来るはず。加えて、Cuseは次回の再戦ではホームのCarrierドームではない。今回はCornellに負けた直後で緊張感を持って挑めていた。あと、Face-off classicのGeorgetown戦の出だしやBig City ClassicのDuke戦の後半の怠慢を見ると、ぶっちゃけ、何となく、ちょっと慢心/油断する傾向があるチームな気がしないでもない。心配だ...
  • Duke-ND。これもどうなるか非常に気になる。去年と同様NDがDukeに勝ったのはシーズン初期。若いDukeがまだ完全に試運転状態での勝利。今のDukeはぶっちゃけ全く違うチームになっている。#31 AT 1年生のJordan Wolfが完全に開花しているし、全体的に明らかに有機的に機能するようになってきている。
  • Marylandもいくつか負けているが、最後に大事な場面で頼れる4年生が分厚い。去年NDに足元を掬われて悔しい思いをしている。気合いで勝ちきる、みたいな事が起こった場合、現時点での勝敗数/順位以上に上にくる可能性。
  • Johns Hopkins。これも読みにくい要素がある。シーズンを通してギュインっと本来の力を開花させて行ったイメージがある。
  • Virginia。シーズン開幕時はCuseと並んで優勝候補筆頭。前半はいい感じで勝っていた。が、後半一気に失速。DFのLovejoyが怪我で離脱、MFで攻撃の柱Shamel Brattonを規律違反で失い、Rhamel Brattonも現時点では出場停止。相当苦しくなっている。が、一方で、Bratton兄弟が出なくなった事で新たなチームの力学が生まれつつある。
うおおお...一体どうなるんだろうか...マジで今年のNCAAは全く読めない。ワクワクドキドキさせられっぱなしの三週間になりそう。

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