2011年3月11日金曜日

Indoor vs Outdoor、カナダ対アメリカ

先月号のILに非常に興味深い記事が載っていたので紹介。アメリカ国内で、キッズからユースレベルを対象とした、全米レベルのインドアラクロスの協会、American Indoor Lacrosse Association (AILA)が昨年立ち上げられたという話。(AILA website

創立はNLL Philadelphia WingsのGeneral Manager、Johonny Mouradianら。基本的にはルール、イベントや組織といった競技としての枠組みを整理し、kidsを中心として各州のリーグを管理し、クリニックやトーナメントを主催し、インドアラクロスの米国内での普及に努めるということらしい。

その背景にある話が非常に今のアメリカ/カナダのラクロス事情を表していて面白いなと感じた次第。インドアとアウトドアという似て非なる両競技間のせめぎ合い、そしてアメリカとカナダという2大ラクロス大国による覇権争いの構図。

ちなみに、アメリカでラクロスをfollowし始めて非常によく解ってきたのが、本当にラクロスというスポーツ/エンターテインメントの全体像、特に世界のトップクラスのラクロスのダイナミクスを理解するためには、アメリカのNCAAやMLLだけを見ていてもだめで、この辺のカナダ人、インドアラクロス、NLLの話を理解しないといけないという点。フィールドラクロスを知っているだけでは、実はラクロスというスポーツの半分しか見ていないことになる、という盲点。以下、何でそう感じるに至ったかも含めてつらつらと。

(にしても、同じ「ラクロス」の括りの中でも男子と女子という全く異なるスポーツが存在しており、更に同じ「男子ラクロス」の中でもフィールドとインドアという全く異なる二つのスポーツがお互いかなり高いレベルで成熟/完成された形で共存している。パッと思いつく範囲でそんなスポーツ他に聴いた事が無い。このスポーツの特殊さを端的に表している。)

(Philadelphia Wingsのホームゲームで試合開始前の練習でボールボーイをするKidsたち)



昔から脈々と続く、アウトドアのアメリカ対インドアのカナダの構図

ここは皆さんもご存知の通り。カナダの国技はアイスホッケーと並び、インドアラクロス(もちろん規模や人気ではアイスホッケーに劣るが)。アメリカはアウトドアが基本。ほとんどのカナダ人ラクロス選手はカナダでインドアラクロスをやり、アメリカ人はアメリカでアウトドアラクロスをやる。長きに渡りそのボーダーラインは厳然と存在していた。


ところが、その垣根がここ10年で大きく崩れ初めている

先日の「NCAAでプレーするカナダ人が激増」の記事でも紹介したが、カナダからは多くのインドア出身者がアメリカのアウトドアのNCAA/MLLに雪崩れ込み、一方でNCAA/MLL出身のアメリカ人トッププレーヤー達がNLLでプレーしている。境目がどんどん薄くなり、ボーダーラインがぼやけて来つつある。


そんな中でも、ここまでは明確にカナダ人のフィールドラクロスへの流入の方が圧倒的に勝って来た

増え続けるインドアのカナダ人によるフィールドラクロスへの「侵略」

過去数回のWLCの結果を見ても一目瞭然。'06年もTeam Canadaが圧勝で優勝。'10も予選ではCanadaが勝ち、決勝のアメリカ勝利もギリギリだった。カナダは基本的にはインドア有りきで、アウトドアはあくまでサブでしかないこと、逆にアメリカにとってはアウトドアこそが本業であることを考えると、これは結構物凄い事だ。そして、アメリカにとってはある意味非常に恥ずかしい現状でもある。

また、NCAAでのカナダ人選手の大量来襲とそこでの大活躍を見ても同じ事が言える。古くはSyracuseのGait Brothersに始まりJohn Grant Jr. (Delaware)今年のMLL Draft No.1のKevin Crowley (Stony Brook 11)を始め、ここ数年でKevin Huntley (Hopkins 08), Zack Greer (Duke 08), Curtis Dickson (Delaware 10)と言った偉大な選手達が多くAll Americanに名を連ねている。中堅校が躍進しているケースではほぼ間違い無く得点源にカナダ人アタックが絡んでいる

一方で、アメリカ人のインドアへの流入はかなり限定的

もちろん、無くはない。現在もNLLで活躍するアメリカ人も1割に満たないが、いる。個別に見れば、Casey Powellが昨年MVPを取ったように、突出した活躍をしているケースも、ある。

が、やはり全体で見ればかなり限定的。特にカナダ人のアメリカのアウトドアへの侵略度合いと比べると、圧倒的に負けていると言わざるを得ない。

(また、NLLの開幕前のトライアウトから、練習キャンプを通して開幕までの間の脱落練習生のリストを見ると尚の事明確に解る。多くのMLL選手達がNLLの門を叩き、開幕ロースターに残る前にカナダ人との椅子取りゲームに負けて脱落して行っている。Matt Danowskiなども開幕前に消えている)

結局NLLのコートに立っているのは、Offenseの中ではCPやDrew Westervelt, Ryan Boyle, Brendan Mundorf, Brian Langtryと言った、本当の超一流レベルの選手達で、且つインドアにアジャストしきった最後の上澄みの選手と、Max SeibaldやPaul Rabil、Matt Abbott、Kyle SweenyやKyle Hartzellのようなサイズと身体能力と勤勉さを売りにしたTransitionプレーヤーかDefenderのみという状況(本来GoalieのBrett QueenerもTransitionとして気合いで食い込んでいる)。が、全体として見れば決して成功しているとは言えない

そして、(インドアが普及していない日本では余り知られておらず、アメリカですら存在感は薄い)WLCのインドア版、World Indoor Lacrosse Championship (WILC)では、2003, 2007とCanadaが優勝し、USに至ってはIroquoisに次いで三位...(Wiki

なので、結果、相互の乗り入れの規模の大小、結果としての成功度合いを見た場合、カナダのインドアの圧勝、ということになる。

(写真はPhiladelphia Wingsの試合のハーフタイムにexhibitionで試合をする地元の小学生チーム)



明確に存在する競技間の「一方通行」

つまり、(個別論を全く無視して全体でバクッと語れば)明らかに、ファクトベースで、インドア→アウトドアの方が、アウトドア→インドアよりも遥かに移行し易く、成功し易いというメカニズムが成り立っているということ(後者が全く無いという訳じゃなくて、圧倒的に数が多く、一般論としてやり易い)。行ったり来たり、ではなく、明確に片方がもう一方を侵略するという構図が成り立っていることになる。

例えば、同じ身体能力と才能を持った幼稚園児100人の人材プール2組を、片方はカナダで育ててボックスラクロスをやらせ、もう片方はアメリカでフィールドラクロスをやらせ、高校の後半から大学生ぐらいのタイミングでお互いの競技に乗り入れをさせた場合、恐らくカナダ人のグループの方はもちろんインドアで圧勝し、アウトドアでも元々アウトドアをやってきたグループにアウトドアでもいい勝負を演じ、数年アウトドアを練習した時点でアウトドアでも確実にアメリカグループに勝ってしまう、という事が起こってしまうんじゃないだろうか。

(もちろん、これは極端に単純化したシミュレーションで、実際には個々人の能力や努力による部分が大きいし、且つDFや機動力勝負のトランジッションMFに関してはそうは言ってもフィールドの選手に分があるケースも多いんだろうけど。一般論として。)


背景には、競技のネイチャーとしての優位性

何故か?この記事でも触れられていたが、インドアが持つ競技としての特性、そこで培われる技術、そしてそのレベルの高さが、正に本来アウトドアで必要な物そのものズバリだからという話。
  • 狭いスペースの中で、ギュッとタイトにパックした中で高速で行われるスピード感、状況判断、スティックスキル
  • 壁に跳ね返りアウトオブバウンズやチェイスが無く、ノンストップで繰り返されるトランジッションと数段速い展開ペース
  • フィールドの10人を常時理解し続けるvision(視野)
  • 二手先、三手先を読む力と、そこでのベストな動きを瞬時に引き出すラクロスIQ
  • 小さいゴールと大きいゴーリーに対して求められる針に糸を通すような正確なシュートと、タイミング/間合い/スクリーンショット/目線や身体でのずらしや騙しの技術と、creativity(創造力)
  • 一人でオフェンス、ディフェンス、トランジッションの全てをやらざるを得ない状況で生まれるversatility(ユーティリティプレーヤーっぷり)
  • OF/DFでもセットの状態での全ての出発点となる、2 on 2とピック
  • ショートスティック限定で脚とポジショニングで守らざるを得ないディフェンス
(あんまし整理されてないが)パッと思いつく範囲でも相当ある。そして、どれを取ってもまるでフィールドラクロスのトレーニングのために作られたかのような錯覚すら覚えるほど、超重要。

要は、一度インドアの中で揉まれてしまえば、アウトドアなんて簡単、という考え方。もちろん、Weak-handの技術や、細かい戦術の慣れ、ロングスティックへの対応など、アジャストしなくては行けない部分(借金の部分)は存在する。それでも、インドアからアプライ出来、且つ周りの選手に対するエッジとして使える部分(貯金の部分)に比べると、差し引きで遥かにお釣りが来るという考え方。

これに対し、アウトドアからインドアにアジャストするのは逆に貯金が少なく、借金が多い、という状況になるようだ。過去に何人かのNCAA出身のアメリカ人NLL選手、及び挑戦したが叶わなかった選手達のインタビュー等で何度も耳にする。「スピードが数段速い」「求められるスティックスキルの精度が全く違う」「思った以上にバックハンド/over the shoulderで咄嗟のパスを捕れない」と言う。「いや、やったら何となく感覚で出来たよ?」という人は聴いた事が無く、「まあ、徐々に楽しみながら学んで努力したら出来るようになったよ」と言っていたのはCasey PowellやPaul Rabilなど、MLLでもトップクラスの選手か、守備力や身体能力頼みでサバイブしているDFやTransitionの選手達のみ。しかも、恐らく相当努力している。


気になる今後の勢力図の変化

当分は、恐らくこのCanadian Indoor優位の流れは変わらない、いやむしろ暫くは加速度的に強化されて行くだろう。前回のカナダ人流入記事でも書いた通り、より多くのカナダ人がより若いタイミングからアウトドアへのアジャストをし始めている。今後NCAAに流れてくるカナダ人の数はどんどん増えて行くだろう。

注目は、一方で、アメリカ人によるインドアへの乗り入れをどこまで作れるか?という点。

今回のAmerican Indoor Lacrosse Association (AILA)の設立には、アメリカ人ラクロス関係者たちのそういう意図も結構あるように見える。


実際にどう立ち上がって行くのか?

が、どうでしょ。実際アメリカの中でどれだけインドアが普及して行くのか。これはなかなか一筋縄では行かない。そもそも目の前にあれだけカッコ良くて解り易いNCAAとMLLがある。NLLが爆発的に人気沸騰しない限り、ほとんどのKidsにとってロールモデルは引き続きアウトドアの選手であり続けるだろう。また基本北海道以上の極寒地域というカナダと違い、インドアラクロス用のボックスがそうそう無いというインフラの違いもある。

AILAは壁を使うが外でやるような、アウトドアとインドアのミックスの様なスタイルを考えているようだが、一体どこまで選手達を引き込めるか。

個人的にはラクロスの普及には間違い無くプラスになるし、このカナダ対アメリカの対決に新たな一面を加え、面白さを増してくれるだろうから、是非とも応援したいと思う。

が、どうでしょ。冷徹に客観的に見ると、恐らくカナダ人のインドアからアウトドアへの侵略の度合いとスピードに比べれば、どうしてもゆっくりとしたペースにならざるを得ないんじゃないかと想像する。そして、もしそうだとすると、今後WLCでは暫くアメリカとカナダの拮抗は続き、場合によってはカナダ優位が強化されるかも知れず、またIndoorのWILCでアメリカがカナダに勝つという絵柄は僕らが生きている時代には見られないのかも知れない。


最後に付け足し。留学先として

さて、毎度の付け足し。現役選手の皆さんへの留学先提案の仕事もせねば...ってことで。どうでしょ。Michiganの既存事業に加え、新規事業として、1-2人からで構わないので、カナダの地元インドアクラブチームにステイするってのは。

皆が皆やる必要は全く無くて。興味がある選手、フィールドもいいけどインドアも面白いと思える選手、ちょっと変わってて、人と同じ事やるよりは獣道を歩きたい選手。是非チャレンジしてみてもいいかも。環境的にもなんだかんだ言って国は違えど同じ中上流階級出身のホワイトカラー子弟の名門大学生たちと生活するMichigan留学と違い、地元密着/生活密着でカナダの環境でやる方が遥かに刺激に満ちていて人生勉強になるかも知れないし。

技術的にも、下手に日本でフィールドの練習を1年やるよりも、1-2ヶ月インドアの本場に身を置いた方がその後のラクロス選手としてのライフタイムに与えるインパクトは大きい気がする。NLLのビデオで伝わるあのインドア独特の高揚感とスピード感。ワクワクする衝動、チャレンジしてみたい気持ち、武者震いを抑えられない尖った選手がいれば、是非。別に上手く行かなくてもそれはそれで素晴らしい経験になることは間違い無いし、失う物なんて何も無い訳で。たった一度の人生、早いタイミングでガンガンget out of your comfort zoneして行こう!ということで。

0 件のコメント:

コメントを投稿