2010年6月26日土曜日

NCAA 2人のヘッドコーチの移籍① Jeff Tambroni (CornellからPenn Stateへ)

さて、今週の間に2人のヘッドコーチの移籍に関するニュースがあった。1人は以前散々記事で紹介した(&持ち上げた)CornellのJeff TambroniのPenn Stateへの移籍、もう一人は同じくIvy LeagueのHarvardのTillmanのMarylandへの移籍。今回は前者の紹介。

Jeff Tambroni (Cornell to Penn State)

Penn Stateの記事のリンク


まずTambroni。以前の記事でも散々賞賛したが、Cornellを率いて過去4年間で3度のFinal Four進出。入試や勉強、練習時間等の規制が厳しくハンデの大きいIvy Leagueにあって、選手の素材の面でSyracuse, Hopkins, Virginia, Maryland, Dukeら強豪校から一段劣るCornellを知力と情熱でそこまで強くした功績は誰もが認めるところ。額面上の実績ではトップ5人のHCの一人、というところだが、与えられた環境/リソース見合いでの達成度ではおそらくぶっちぎりの1位じゃないだろうか。現時点でNCAA Men’s Lacrosse最高のコーチと評価する関係者やファンも多い。2001年に前任のDave PietramalaがHopkinsに復帰移籍したタイミングでAssistantに就任したときは誰も彼のことを知らず、結果を出しても「どうせPetroが残した遺産だろ?」と言われていた。その後活躍を続け、今では「TambroniこそがCornellを昔の強いCornellへと復活させた功労者だ」と評価される。

東大と重なる部分も?

学問的名門校で、授業と両立しながら体育推薦無しで身体能力やサイズのハンデを負いながら、情熱と規律と戦術を武器に結果を出す姿を見て、勝手に東大とダブらせて見ていた自分は、非常に共感の持てるチーム/コーチだった。

移籍の背景

以前インタビューで伝統的強豪校に移籍する気はないか?との質問に対し、「今のところCornellに大満足しているし、自分自身Cornell出身だし、家族の話もあるし、基本的には当分無いんじゃないかと思ってる」的なコメントをしていたので僕自身も移籍はまずないと思っていた矢先のことだったのでショックを受けた。USラクロス界全体に衝撃が走った移籍。スポーツニュースでも報じられたため、Lacrosseファン以外にも認知されたニュース。一昨年のBill TierneyのPrincetonからDenverへの移籍に次いで大きなニュースじゃないだろうか。

移籍先は、33年間(長っっっ!!)HCを勤めた前任のGlenn Thielが今年限りで引退するPenn (Pennsylvania) State大学。大型総合州立大学で、アメフト、バスケ、女子バレー、レスリングなど、あらゆるスポーツで結果を残す伝統的スポーツ強豪校。(ちなみに僕が勤める会社に地理的に近いこともあり、結構周りににPenn State出身者がいる)

ラクロスに関しては所謂東海岸沿いのHot Bedからは少し内側に入った、気持ち中西部に近い位置/内陸部にあることもあり、Division 1に属するものの、その中ではさして際立った強豪というわけではなかった。過去の成績を見ると大体15~30位前後をうろうろしてる感じ?失礼を承知で言わせていただくと、「ぶっちゃけイマイチ」というのが今の実力。

Why Penn State? And, why now?

じゃあ、なんでまた…?

Inside LacrosseでのRound Table Discussionか何かでも議論されていたが、いくつか背景となるロジックの紹介。

そもそも、大学ラクロスチームの競争力を決める潜在的なファクターとして以下のようなファクターがあると言われている。
 ●大学のサイズ/学生数
 ●地元/卒業生のファンベース(チケット/グッズ/広告収入の源泉)
 ●大学のAthletic Committeeの強さとコミットメント
 ●寄付金のでかさ/収益力/経済力
 ●選手獲得競争で勝てるだけの大学のブランド/歴史/学力/魅力
 ●奨学金制度(金額×人数)
 ●地理的な条件(一般的に西にあると不利)
 ●グランドやトレーニング設備といった施設の充実度

実はPenn Stateはその辺りの要素に関してはトップクラスにある(だからこそアメフトも強い)。逆に言うと、それだけの条件がありながらこれまで強くなかったのが不思議なくらいで、「Sleeping Giant(眠れる巨人)」とも呼ばれていた。裏を返すと、それをしっかり結果に結びつけるだけのコーチがいれば、比較的短期で強豪校の仲間入りを果たすんじゃないかとも。今回の移籍はPenn Stateが金を積んででもがっつりコミットして徹底的にLacrosse部をTurn aroundするという強い意志の表れにも見える。

そんな学校からのオファーを受け、Jeff Tambroniはどう感じたのだろうか?本人の立場を勝手にするといろんな思考や想いが浮かんでくる。

Ivy Leagueの限界

Cornellで出来る事はある程度飽和点近くまでやりきり、これから先さらに大きな飛躍を目指すためにはやはりIvy Leagueでは限界があっんじゃないだろうか。特に去年(09年)のCornellはMax Seibald、John Glynnを初めとしたトップクラスのタレントを要し、Ivy Leagueの学校としては10年に一度のNCAA優勝のチャンスだった。解説者のQuintも去年の決勝での敗北は、「次のチャンスは一体何十年後に来るのかわかんないよ?」というレベルの、正に千載一遇のチャンスを逃したことを意味すると指摘。本人としてはLacrosseのHCとして一生のうちに一度は絶対にNCAA優勝を果たしたいはずで、それを考えるとこのままCornellで次の奇跡的タレントの「波」を待つべきかどうか相当に悩ましかったはず。

前回の記事でも書いたが、そもそもIvy Leagueの学校には多くのハンデがある。体育会推薦が無く一般入試でしか採れない、入学許可のタイミングが1年近く遅い、NCAA以上に厳しい練習時間の制限/試合に出るのに必要な学業成績の要求、授業の厳しさ、コーチ/スタッフに払われる給与の低さ(アシスタントの多くがVolunteer)等々。Recruitingでプラスに働くCornellの大学としてのブランドを差し引いても圧倒的に不利な要素が大きく、競争が激しくなる近年その厳しさは増す一方。

そんな諸々の事情や想いの中、Penn Stateの提供する、リソースに恵まれ、ゼロベースで新しく自分の理想とする強いチームを作れるという環境に強く惹かれたんじゃないだろうか。もちろん、家族ファクター(CornellのあるIthacaはかなり田舎。子育てや奥さんの仕事的にはPenn Stateの方がBetter?)やSalary、Job Security(長い期間での契約)の話等、Publicにオープンにならない話も多く、実際彼がなぜ意思決定したのかは定かではないが。(ざっくり言うと、基本学問ありきのCornellに比べると、体育会への投資の大きいPenn Stateの方が給料はいいと想像される。)その他にもコーチにとっての大事な副業で収入源でもあるCampの開催のし易さ、参加者の集めやすさ、マーケティングや運営への学校の協力体制など、もう一歩複雑なファクターも絡んでいるらしい。

無理やり要約すると、Cornellでこのまま「そこそこ」の成績を安定して出し続けるのか、多少リスクを取って/時間を掛けてでもバチッとリセットボタンを押して仕切り直してゼロから理想のチームを作って捲土重来を期すか、の判断で、その他諸々の事情を併せて考えた上、後者を取ったということだろうか。個人的には、チャレンジへのワクワク感ややり甲斐を考えると、彼の意思決定に同意だし、強く応援したいと感じる。

Tambroniへの賞賛/信奉の声

今回の移籍を受け、インターネット上のForumやInside Lacrosseのコメント欄でCornellのファンや卒業生からいろんなコメントが書き込まれていた。その多くがTambroniに対し賞賛、感謝するものであり、Cornellを去ることに対し恨み節を述べる訳でもなく、「あなたのことを人として、コーチとしていつまでも尊敬し、応援している。Cornellにはいつでも帰ってきてくれ。そのときはみんな暖かく迎えるから。」と言った極めてPositiveなものが多かったのが印象的。彼の人としての魅力、リーダーとしての資質、そしてラクロスへの愛情と情熱が成せる業なんだろうなと思った。

今後

さて、いずれにせよ、来シーズン以降が楽しみ。もちろんPenn Stateが実際に彼の恩恵を受け、結果を出すのには数年を要するだろう。が、恐らく早くも今年のRecruitingからTambroniに教えられたくてPenn Stateに向かう高校生も出てくるだろうし、その数は年々増えていくだろう。恐らく3年、5年の時間軸ではTop 10に絡んでくるチームを作ってくるに違いない。特に、東海岸に加え最近有力選手を輩出し始めているOhioなどの中西部を「狩り場」に出来ることを考えると、思った以上にその時間軸は短いかも知れない。

一方で彼がいなくなるCornellはどうなるんだろうか?Defense CoachがHCに昇格する人事が決定したらしい。TambroniのRecruitingでの強さ、PannelやMockといった若いATを要する戦術的OFは引き続き健在であり続けるんだろうか?こちらもどうなるのか、その行く末が気になる。解説者のQuint Kessenichも指摘していたが、一般的にPositionコーチがHCにStep upする際には苦戦するケースが多い。自分が見ていたDに引き続き介入し続けるべきなのか、Oをどれだけ見るのか任せるのか等、多くの新任HCがアジャストに苦しむと。

コーチ人材を輩出し続けるIvy League

さて、今回紹介したJeff TambroniもIvy Leagueから他校への移籍。もう一人のTilmanもIvyのHarvardからMarylandへ。去年のBill TierneyのPrincetonからDenverへの移籍や、もっと前ではPietramalaのCornellからHopkinsへの移籍と成功など、Ivy Leagueがコーチ人材のIncubator(育成/輩出機能)を担っている面も。限られたリソースとあらゆる制約条件の中、未完成だが頭のいい選手たちを持ち駒として、限界まで頭を使って戦う。お互いをよーく知り、スカウティングし切った7チーム間での激しい競争。ここでコーチ/リーダーとしての資質を磨き、実力を証明してBig schoolに(多くの場合数段いい給料で)Head huntされていくという流れ。USラクロスを見る上でのもうひとつの見所でもある。

と、同時に、今東大で学生/OBコーチとしてチームを支えるメンバー、主将やポジションリーダーとしてチームを率いるメンバー達を想像し、改めて、間違いなく、素晴らしい体験/学習の機会を得てるなと思った。試行錯誤を重ねながら、小さな失敗と成功を積み重ねながら、想いと情熱を元に頭と心を使って組織をinfluenceしていく。リーダーとして将来絶対に大きな財産になるはず。(僕自身主将を経験させて頂いた機会は10年経った今振り返って、改めて素晴らしい経験だったと心底思う)

いたる13期

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