2016年6月17日金曜日

なぜUNCが優勝できたか

今回のUniversity of North Carolina (UNC) Tar Heelsの優勝、再三書いてきたが、非常に特別な物であったと共に、多くの関係者にとって予想外の結果だった。

UNCは80年代、90年代初期には四度の優勝を果たし、王国を築いたものの、その後低迷し、何と今回の優勝は1991年以来の25年ぶり。加えて、今シーズンは主力を卒業で失い、再建元年だった。シーズン序盤から格下にも負け、12勝6敗でトーナメントもギリッギリのノーシードでの参加。6敗、ノーシードからの優勝はNCAA史上初。

今年の年明けから地元Chapel Hillで試合を見つつ応援してきた地元ファンの自分も、ぶっちゃけまさか優勝できるとは露ほども思っていなかった。

なぜ、優勝できたのか。決勝戦1試合に限らず、シーズン全体、よりLong-termの視点、リーグ全体の視野も踏まえて、ILの関係者インタビューや記事等も参考にしつつ、考察してみる。

自分自身に取っても学ぶべき点があるかな、と感じたので。典型的な低迷組織のTurn Around、変革リーダーシップの事例だと思うので。日本のラクロスチームを考える中でも参考になる点があるとも思いますし。

1. Head Coach Joe Breschi氏の功績

やはり、これが最大且つ直接の理由の一つだろう。彼自身80年代後半に選手としてUNCでプレーし、卒業直後にAssistant CoachとしてUNCで優勝を経験している。

低迷するUNCをターンアラウンドするために2008年に前職のOhio StateのHead Coachから、UNCに請われて母校のHead Coachに就任。そこから8年掛けての優勝達成

今年いくつかのインタビューを聞く中で、やはり今回の優勝は彼の貢献無くしては絶対にありえなかったという事がよーく解った。個別に要素要素を見ていこうと思う。

2. 根源的な意識改革

Breschi氏が就任した頃のUNCは、典型的な二流チームだったとの事。当時、Duke, Maryland, Virginiaと4チームで構成されていたACC (Atlantic Coast Conference)では、万年ボコられ役。NCAA優勝なんてとんでもない夢。選手たちの意識レベルも低かった。

そこに、Breschi氏がやって来て、8年掛けて、優勝できるチームにまで変革させて行った。徹底して、自分たちはトップクラスのチームになるんだ、ACCの中でも堂々と渡り合って勝って行くんだ、5度目の優勝を果たすんだ、という意識を刷り込んで行ったとの事。(スラムダンクで、皆が引いてる中、ゴリが「全国制覇」をいきなり目標に掲げて、桜木と流川が頷いて、徐々にチームの皆に感染して行った、あれですな。)

Chapel Hillに住んでいてUNCの生徒や環境を見ているとよーく解るが、確かに、強豪ラクロスチームを作るのは簡単ではない事が解る。気候も温暖で冬も暖かく、街の雰囲気が優しくのんびりしており、ザ「牧歌的」。都会の荒波の中で、目をギラギラさせて、「競争に勝って優勝してやんよ!」というメンタリティには、確かになりにくい。加えて、学内での花形スポーツは常に、全米トップクラスで全国民が注目するバスケットボール。その影に隠れて、プレッシャーを受けずにのんびりとラクロスができてしまう環境。

そこからの改革の歴史だったらしい。

3. 早朝練習への切り替え

大きな切り替えが、それまで午後にやっていた練習を、午前7時からの朝練に変えた事。

授業に出て、(人によっては出ずに昼ぐらいまでのんびり寝て)午後からの練習では、集中力も散漫になるし、欠席/遅刻者も出るだろうし、加えて夏から秋に掛けては(アメリカ南部に位置するNorth Carolinaは)気温も湿度も高く、練習の質が確保できない。という事で、早朝の静かで涼しい中、グッと集中して2時間バチッと効率よく練習するスタイルに切り替えたとの事。これにより練習の質が上がったとの事。

4. リクルーティングの徹底的テコ入れ

誰の目から見ても明らかな変化はここ。そして、これがJoe Breschi氏の最大の貢献。

現代のNCAAラクロスに於いて、リクルーティングは最大の戦略変数になってしまっている。一流の高校生選手を十分な数確保しない事には、そもそも土俵にすら乗れない。

UNCの学校としてのブランドと素晴らしい環境に加え、Joe Breschi氏の超PositiveでSupportiveな人柄、チームの攻撃的でダイナミック、且つ「Family」と学業を大事にする哲学、「Fun」なラクロススタイルにより、8年間で急激にリクルーティング市場に於いて最も魅力的なチームの一つになり、多くの有力高校生選手を集められるようになって来た。

今回の優勝は正に、Joe Breschi氏になってからのリクルーティングが一巡して、全学年彼ががっちりリクルーティングした選手たちによる優勝だった。

高校オールスターである、Under Armor All Americaに選ばれた選手が4学年合計で20人はNCAAでも最大。選手個々人のタレント、フィジカル、個人技では、(突き抜けたスーパースターこそいないものの)明らかにNCAAでもトップクラスのチームになった。

今回のトーナメントでも、再三書いたが、明らかにアスリートとしてのフィジカル、そして選手層の厚さで、単純に走り勝つ、当たり勝つ、後半にスタミナと層の厚さという総力戦で勝つ、というシーンが何度も見られた。

5. Joe Breschiコーチのポジティブでサポーティブな人柄、スタイル、価値観

Joe Breschi氏の言動を見ていて感じるのは、「今時の選手向き」かな、という点。厳しく、理不尽な鬼軍曹スタイルとは対極にあり、Flexibleで、ポジティブで、厳しさと優しさのバランスが取れている。練習中も「いいよ!」とか「素晴らしいね!」という「褒めて伸ばす」声掛けが圧倒的に多い。個性を大事にし、一人一人の選手の自主性を重んじ、Respectを持って接する。選手たちと時に友達のように、家族のように近い距離で接しており、一緒になって喜び、楽しんでいる。(見ていると、本当にお兄ちゃんかお父さんという感じ。)

明らかに、DenverのBill Tierney氏、VirginiaのDom Starsia氏、HopkinsのDave Pietramalla氏と言った、歴代の、伝統的な厳しいスタイルのコーチたちとは違う、新しい世代のコーチ、スタイル。

今の現役選手に当たる世代は、「Millennials」と呼ばれる、Social MediaやiPhoneを経て、CollaborationやDiversityの中で育って来た、自分大好き世代。昔のようにCompetitionとDiscipline一辺倒で自分を殺しながらやりたい世代じゃない。

そりゃ今時の高校生はそっちに魅かれるよね、と。

6. 選手たちのOwnershipとLeadership

加えて、上記のBreschiコーチの哲学/スタイルにより、「コーチが指示/命令するから」、ではなく、自分たちが自分たち自身の為にやるんだ、というOwnership/当事者意識/自主性、俺たちがやらなきゃ/変わらなきゃダメなんだ、というLeadershipが自然発生的に生まれて行った。

これまで見てきたチームの中でも、明らかにこの辺の、選手自身の持つOwnershipやLeadershipが強いチームだったように見える。

7. 卒業生の巻き込み

Joe Breschi氏がインタビューで挙げていたのが、就任直後から、卒業生のネットワーク/リソースをフルにレバレッジしたという点。

金銭面での支援、試合の応援もそうだが、アイデアを貰ったり、特に数多くの高校生と会い、説得/勧誘する必要のあるリクルーティングでもいろいろ助けてもらったとの事。

確かに、UNCを見ていると、明らかに他校と比べても卒業生のネットワークが強く、試合会場で感じられる「コミュニティ感」「ファミリー感」が圧倒的に強い。

8. ピーキング

これは間違いなく今年どハマりした要素の一つ。

例年Dukeが非常に上手くやっている。

多くのチームが、2月のシーズン開始からスタートダッシュするも、4月にピーキングしてしまい、5月に失速して消えていく。

今年のUNCは遅すぎるぐらいのタイミングでピークを迎えていた。3月までグラグラ。4月にちょっとずつ良くなってきたが、まだまだ。5月に入って、トーナメントでも、本当に花開いたのは準々決勝からの最後の3試合だった。

フィジカルな完成、個々人のメンタルの安定と自信、チーム全体の統制と協業、戦術やロースター(人選)の安定など、最後の最後にグググッと加速度的に、引くほど完成度が上がって行った。

逆に、準優勝だったMarylandは、シーズン初旬から明らかに強かったが、トーナメントに入って大きく伸びたようには感じなかった。(逆に、細かく残っていた弱点/課題が最後まで潰しきれていなかった)

優勝が狙えると言われていた去年のUNCも、シーズン中は良かったが、最後におかしくなってトーナメントで沈んでしまった。

改めて、シーズン最後のトーナメントで強かったもん勝ち、というこのNCAA Lacrosseの「ゲームのルール」を思い知らされたシーズンだった。

9. プレッシャー/注目度の低さ

正直、これもあるはず。

Joe Breschiコーチも、選手たちも、再三「ぶっちゃけ誰も期待してなかった」「プレッシャーがなかった」「伸び伸びプレーできた」と言っている。

まあそりゃそうだよね。だってレギュラーシーズンで6敗もしてるし、トーナメント出場もギリだし。ぶっちゃけ地元で応援していた僕ですら「トーナメント出られたー、ラッキー♪」ぐらいにしか思ってなかった…

逆にMarylandの例で言うと、シーズン当初から「今年こそは41年ぶりの優勝の年!」と言われていたし、思っていたし、周囲からのプレッシャーは相当な物だったはず。

10. 組み合わせ

本当に、組み合わせに恵まれたトーナメントだった。数あるシナリオの中で、トーナメントの組み合わせに関して言えば、ある意味神懸かったレベルで、ラッキーな結果になった。

一回戦で当たったMarquetteは、確かにリーグ戦では多く勝っていたが、新興校で、明らかに自力でUNCの方が上だった。

元々、準々決勝で当たるはずの山には、昨年優勝で今年も一度負けているDenver、更に準決勝で当たるはずの山には終生のライバルで今年もOT 1点差で辛勝しているDukeがいたが、それぞれTowon、Loyolaに負けて早々と姿を消してくれていた。

決勝も、もしBrownのMVP #4 AT Dylan Molloyが足を骨折せずに残っていたら、Marylandに勝ってBrownと当たり、負けていたかもな、とも思う。Marylandが倒したSyracuseには今年2度がっつり負けており、天敵状態になっていた。

これ以上無い程の筋書きで、苦手な敵がバタバタと倒れていき、道が開けて行った(少なくとも、切り開きやすい敵になっていった)という印象を受ける。

という感じ。まあでも、本当に、いろんな要素が重なって、加えて強力な運もあって、成し遂げられた優勝だったなと感じる。地元Chapel Hillのファンとしては本当に素晴らしい夢を見せて頂きました。あざっした!

0 件のコメント:

コメントを投稿