2011年11月22日火曜日

IL Podcast Dom Starsia Interview vol.2

IL Podcastに今年もVirginia Head CoachのDom Starsia氏のインタビューが載っていた。前回もそうだったが、この人の話は、個人的に琴線に触れるものが多い。(前回のインタビュー

2010年に、優勝候補と目されながら、プレーオフ直前に当時4年生だった選手が女子ラクロス部の元交際相手を殺害し逮捕されるという事件が起き、混乱と動揺の中プレーオフを戦い、準決勝で惜しくもDukeに敗れる。

11年は、今年こそは優勝と言われながらも、シーズン中盤から一気に失速し、加えて主力の怪我、規律違反での出場停止、Bratton兄弟の除籍など、ボロボロの状況に。後半は大事な試合を相当数落とし、ギリギリプレーオフ進出。一回戦のBucknell戦ではあわやアプセット(番狂わせ)の一歩手前で勝利し、そこから不屈の闘志で勝ち上がり、優勝候補筆頭のMarylandを抑えての涙の優勝。

話を聞く中で、如何にVirginiaがチームとして苦労しながら、試行錯誤しながら、そして変化/成長しながら優勝を成し遂げたのか。如何に選手たちによるロッカールームでのリーダーシップが大事かなど、リーダーシップ論/経営学としても非常に学ぶ事が多いと感じた。

選手/スタッフの皆さんも興味あれば是非聞いてみて下さい。今後のチーム作りに向けて参考になる点は多いはず。

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以下、ハイライトを切り出して紹介。

1. 2011年シーズンは非常に特殊な、そして厳しい一年だった

上記の通り、いろんな事が有り、正に山有り谷有り。メンバーも大きく入れ替えながら。最終的にある程度チームが形になり始めたのは正直言ってレギュラーシーズンの最後の試合くらいだった。チームのパーソナリティーがシーズンを通して大きく変わった一年だった。

その時点ではまさか決勝に行くとは思ってもおらず、決勝の朝になっても、「まあ、ぶっちゃけここまで勝って辿り着いた事を考えると、既に上出来。あれだけ素晴らしいMarylandと戦えるだけでも幸せ。最悪勝てなくても恥じる事なんて全く無いな」とすら思った。

2. 優勝を果たせた最大の要因は、根元の部分にあった選手たちのリーダーシップ

2人の4年生キャプテン、必ずしもフィールドで最も目立っていた訳では無く、スポットライトが当たっていた訳ではないが、実は、DFのMalphrus、MFのHaldy、この二人のベンチやロッカールーム、練習でのリーダーシップ。これが最大の理由。

来年の2012年のシーズンに向け、多くのメディアが、「主力メンバーがほとんど戻るのでVirginiaは安泰」と言っているが、違う。彼ら4年生キャプテン二人の存在はプレー以上にbehind-the-sceneで非常に重要だった。

2010年の殺人事件以降、チームは全米からの注目と興味の目、批判の目に晒された。そんな中、特にMalphrusは自ら鬼軍曹の役を買って出て、行動規範のスタンダードを保ち、例えそれが誰だろうと関係無く、言い訳無用で高いレベルでのモラル/行動規範を求め、それを違反した者は容赦なくルールに従って出場停止や退部などの厳しいペナルティを課した。(それによって4年間チームの得点源だったBratton兄弟はプレーオフ直前に除籍され、準決勝ではその穴を埋める筈だったBriggsは出場停止になった。)

例えそれが主力選手であっても、明確にフィールド上での戦力低下に繋がっても、容赦なく、一切の例外無く、妥協せず、徹底して行動のルールを守ることを優先した事。準決勝の日であってもそれを守り、チームの大黒柱だったBratton兄弟に対してもその自分たちに課したルールを曲げなかった。それがチームに推進力と犠牲の精神を生む事に繋がった。

3. DFのLovejoyを怪我で失った事、17年ぶりにZone DFを導入した事

去年Ken KlausenらAll American DF 2人を卒業で失い、経験不足だったDFを支えて来たMatt Lovejoy。が、彼がシーズンの途中の怪我で残りのシーズンを戦えない事が分かった。

直後の土曜日に控えていたのは絶対に負けられないNorth Carolina戦。残り4日間。UNCの#4 AT Billy Bitterという突出したダッジャー、加えてUNCはXで非常に洗練された2-man offenseを展開してくる。一体どうやって抑えるのか?頭が痛かった。

しかも試合はシーズンに何試合かESPNの本チャネルで全国ネットで放映される試合の一つ。一体どうするか?そこで至った結論が、これまでのポリシーを捨て、Virginiaで17年ぶりになるZone DFの導入。試合の4日前に。

元々はVirginiaはより大きく、身体能力の高い選手を揃えるチーム。常に広くプレッシャーを掛け、ガンガンボールを奪って点を取りまくって勝つスタイルを標榜して来たし、好んで来た。が、今年のリーグ戦で初めて、同じく身体能力があり、得点力の高いUNCを相手に、経験不足のDFを抱え、遂にZoneを導入するという決断に踏み切った。

火曜日の最初の練習では、末期的。ボロッボロ。水曜も全く形にならない。一時はどうなる事かと思った。が、試合の前々日、木曜日の最後の練習の、最後の10分で、初めて、少しずつ有機的に機能するようになり、ちょっとずつ噛み合って来る兆しが見えた。


そして、UNCとの試合で何とか機能し、最後に一点差の逆転勝利を成し遂げた。


その後完全にVirginiaはZone DFのチームになった。

が、よくよく考えると、実は元々いいZoneのチームになれる要素は揃っていたと言う事に気付いた。Man-down DFは国内でもトップクラス。そこでZoneと共通して必要とされる、メンバー間でのコミュニケーション力、スティックアップしてパスコースを切る習慣、お互いに守備範囲を持って連携する力、相手のオフェンスの次の数手を予測して断ち切るanticipation(予測)の力。実はその辺の能力は元々高かった。

優勝後に始まった今年のシーズンでは、秋に練習や練習試合に何度かZoneを試したが、非常にcomfortableに遂行出来た。今やVirginiaにとってZone DFは欠く事の出来ない武器の一つになったと感じる。

(初めてUVAがZoneをやったときは、「あのVirginiaが!!」と思ったが、こうやって裏話を聞くと、極めてロジカルな必然の帰結だった事が分かる。現代のラクロスに於いて、zoneはそれほどまでに当然の戦術になっていると言う事だろう。)

4. Steele Stanwickの偉大さ

もう一つの大きな成功の要因は、やはりMVPを獲得した、新4年生の司令塔AT #6 Steele Stanwick。3年生でキャプテンの一人を勤めていた。

彼の代替不能な素晴らしさは、周りにいるメンバーの能力を何倍にも引き出せる点。これだけ才能の揃ったチームで難しさになるのは、やはりメンバー間でボールを共有すること。常に誰かが「俺にボールくれ!」「俺にも点取らせてくれ!」と言いがち。

が、Steeleが効率よくボールを配給し、メンバー達の力を上手く引き出してくれる事、それによってチームが勝利へと導かれる事を全員が知っているが故に、全員が彼を信頼し、自信を持って彼に全指揮権を預けられている。English、Bocklet、Briggs、Cockertonなど、彼によってその得点力を引き出されている選手が多い。

そういう意味でSteeleは本当に得難い、特別な選手。過去にもBrown時代からずっとHead Coachをして来て、キャリアの中で何人かしか出会えない、本当に特別な存在。"Icing on the cake"(誕生日ケーキの上に乗っている、砂糖菓子の飾り)という言葉が正に似合う、、チームにとっていい意味での看板。国内にあまたいる優秀なラクロス選手の中でも何人しかいない特別な選手。

自分はもう歳をとり、周囲からもよく「引退のタイミングはいつなんですか?」と聞かれる。「Steeleが卒業しちゃったらもしかしたらその時かな?」という考えが頭をよぎらなくもない。

(にしても物凄い信頼だ。ここまで全幅の信頼と特別な想いを素直に述べられるコーチがどれだけいるだろうか?そして、ここまで言って貰えているStanwickは恐らくStarsiaの為に全てを捧げても構わないくらいの気持ちになるだろう...この辺のスタイルは非常にアメリカと日本のコーチング/リーダーシップの違いだと感じる。Acknowledgeし、Appreciateし、信頼している事を素直に伝える。それによって選手の最大限のパフォーマンスを引き出すというコーチ力の模範。)

5. Resilience

Resiliance(レリアンス [rizi'liənsi] )、つまり、しなやかな強さ、弾力的な忍耐力、不屈の精神、困難に立ち向かい、克服する力。それがどのチームや組織にとっても極めて大事な資質だと思う。

自分がよく今年のチームに話した一つの例は、NFLのNY Giantsの例。ボロボロだったシーズンの最終戦で、当時無敗だったNew England Patriotsとの試合。既に相手はプレーオフ進出を決めており、その試合の勝ち負けは相手にとっても自分たちにとってもプレーオフへの影響の無い、消化試合だった。

その試合でGiantsは観客もどん引きするぐらい、全力でプレーし、最後の最後まで死力を尽くして戦い抜くという姿勢を見せた。そして、それが次のシーズンでの躍進へと繋がった。

2011年のVirginiaは必ずしも実力だけで見れば歴史に残るチームとは思わない。レギュラーシーズンでの結果を見れば分かる通り、もっと強いチームもあったのかも知れない。でも、このResilienceという一点のみに関しては恐らく10倍ぐらい突き抜けて秀でていた。このVirginia 2011というチームの一部として関われた事を本当に幸せに、そして誇りに思う。

(このチーム程この言葉が似合うチームはいない。レギュラーシーズンでは何と9勝5敗。プレーオフ一回戦では格下のBucknellに同点→OTで辛くも勝利。正に、メンタルの強さ、耐え忍ぶ力以外の何物でもない。)

6. シーズン最後に除籍になってしまったShamel & Rhamel Brattonに関して

何度もメディアに聞かれたと思うが、...に関して、という質問に対し。

私のコーチとしての本当の仕事は、突き詰めて言えば、Virginiaに入学して来る才能ある若い選手たちに、「sacrifice is worth it(努力や犠牲は必ず返って来る、準備/努力をすれば最後は必ずそれに見合った見返りが得られる)」という事を伝える事。

40人の才能ある選手たち全員にそれを伝えられれば、それほど幸せな事は無い。大学を卒業しての人生。ラクロス以外の今後の人生に向けての一番大事な学び、伝えるべき事だと思う。それが自分の人生の存在意義だと思っている。

チームのために自らを犠牲にし、チームの為に自分を捧げる事、チームの為にコミットし、努力する事。結局それが最大の価値だと思う。もちろん、それは一朝一夕では伝えられない。高校までちやほやされて来たスター選手であれば尚の事。それがこのヘッドコーチの仕事の難しい所でもあり、やりがい。時間を掛けてゆっくり、山や谷を経験しながら少しずつ伝えて行くしかない。

(これは正にNCAA Div 1の強豪校ならでは。特に、「俺が俺が!」の傾向が一般的に強いアメリカならでは、そしてその中でも更に高校まで各地元のチームでスーパーヒーローだったエリート選手だけをスポーツ推薦で集めるトップ校ならではの悩みか。

日本ではむしろ傾向としては割とおとなしめの選手が多い気がするので、むしろここはやり過ぎなぐらい目立ちに行け、「天才の俺様が試合を決めてやんよ!!」ぐらいに、桜木花道や流川ばりにエゴ満載で行くべしってのが最初の一歩なんだろう。強いエゴを訓練してコントロールすることは出来るが、おとなしい選手にエゴを植え付ける事は難しいので。責任感や、チームのために、なんてのはリーグ戦の最後の何試合かで分かってくりゃいいぐらいの話な訳で。

極端な話、むしろ何年かに一度、「あいつらすげえやんちゃで個性ある野武士集団だったけど、最後までcohesionしなかったな(チームとして機能しなかったな)...してたらすげえ強かったんだろうけど...」と言われるぐらいが丁度いい気ぃすらする。)


7. 2月から始まる来年のシーズンに向けて

やはり4年間ゴールを守って来た守護神、GのAdam Ghettlemanが抜けた穴は大きいが、下級生Gが頑張ってくれている。

全体的にはここまで、秋学期の間チームは良くやってくれていると思う。

難しいのはやはり優勝を成し遂げたdefending championとして戦う事。周りの人たちは常に賞賛の言葉を送ってくれる。そんな中去年自分たちが持っていた程のハングリーさを持てるか。如何に慢心せずに今年のチームは去年とは全く違うチームだと言う事を自分たちにいい聞かせ続けられるか。

3 件のコメント:

  1. stanwickあげあげですね。自分はstanwickばりのIQ高い選手になりたいと勝手に目標にしていたのですがやっぱりHCからも評価高いですね!なんか嬉しいです。

    NCAAのHCの裏話って面白いですよね。どうやって選手を育てるか、チームのマネジメント方法とか。あとはjovan millerのインタビューとか見ても、ガンガン第一線で活躍し続けている人たちは技術だけじゃなくてメンタル・人間的にも成熟してるなと感じます。自分もモチベートされちゃいます。

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  2. うえの

    だな!競技人口がこれだけ多い中、ガキの頃からやって、相当熾烈な競争の中選りすぐられて残ってきた連中なので、やっぱり単純な身体能力やスキルだけじゃ限界があって、更にその上にある程度メンタルに成熟してたり大人だったりしないと本当に傑出した選手にはなりにくいって事だと思う。

    NCAAのバスケを5年間見てきて段々理解してきたが、実はNBAに行けるほどの「(サイズや身体能力、個人技といった)才能」だけに限って言えば、実はそれを持った選手って思ったよりもゴロゴロしてて、でもやっぱりdisciplineだとか、成長意欲とか、きちんと考えてやれるかとか、自分の成長や人生を客観視してマネジできるself-awarenessとかメタ認知とか、自分自身へのコーチ力とか、結局最後の最後はその辺の戦いになってくるっぽいね。

    以前NBAの選手の方々と接する機会を頂き、非常に賢いなー/人としてマチュアだなーと感じた次第。
    http://www.kelloggalumni.jp/kellogg_life/2008/08/nba.html

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  3. やっぱりdisciplineや、人間的な成長大事ですよねえ。

    日本のラクロス界だと、まだまだアメリカのように上澄みの中の選りすぐりが競争してる状態じゃないですけれど、成長のスピードや継続して成長しているかどうか、は大きくそこに影響されてるように思いますね。

    AcknowledgeとAppreciate、自分ももっともっと成長していかなきゃいけない部分です。

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