2011年10月7日金曜日

ラクロスのスピードアップに向けたルール変更の動き

ILの記事で、将来的に国際ルールや日本のラクロスにも影響を及ぼしかねない、2013年のNCAA Men's Lacrosseのルール変更に向けた水面下での動きに関する話が載っていたのでクイックに紹介。(リンク

時間無いので超コンサイスにまとめて話すと、

これまで散々っぱらこのブログの記事でも語って来た通り、ここ数年のNCAAラクロスでは、ラクロスをよりメジャーにして行く上で障壁となり兼ねないいくつかのルール上の問題が指摘されて来た。

その最大のものは、ゲームのペースが遅過ぎる、と言う点。ポゼッション重視でトランジッションが少なく、試合を通しての総得点が少なくなっている。特にプレーオフ等の大事な試合になるとその傾向が一気に増す。

その裏にある3つの理由の一つが、ショットクロックの不在。バスケの30秒ルール導入前夜に似た状況。実際に60秒ショットクロックが導入されているMLLやインドアのNLLのペースが圧倒的に早く、めまぐるしく攻守が入れ替わる事で、正にバスケに近いダイナミクスと面白さを生み出している点を考えると、大学ラクロスでもショットクロックを入れるべきだという意見がかなり多くなって来ている。(オールドスクールの保守的なファン/関係者の中には変化を拒み、伝統を守るべきだ、と強行に反対する層も)

もう一つの理由が、スティックテクノロジーの変化により、ボールダウンがムチャクチャ難しくなって来ている事。カービングヘッド、オフセットヘッド、Pinched(絞られた)ヘッドにより、いまやDFのチェックによりボールが落ちる事がほとんど不可能になりつつある。無くはないが、10年前、15年前の"Edge"や"Evolution"が導入される前のストレートヘッド時代の感覚からすると、有り得ないくらいボールが落ちない。結果として、ポゼッションがより強固なものになり、シュートを打つ意外にポゼッションが入れ替わるリスクが圧倒的に減ってしまった。

最後の理由は、別に今始まった事ではないが、フライシステム。クリア後に一度ボールをアライブでありながらも実質止めて、「よいしょ」としきり直す。ラクロスを初めて見る観客からすると「何しとん?」となるという。

また、その結果/反動として、マンツーではなくゾーンDFを敷くチームが急激に増え、結果、攻める側もリスクを取らずにゆーっくりボールを回すことでゲームのペースが更に遅くなる、という悪循環が始まってしまっている。

オフェンス側も完全にチェス/詰め将棋状態になり、Head Coachのフォーメーション/決め戦術がムチャクチャ重要になり、選手個人の自由な発想/動きを殺してしまうという傾向が強くなっている。(日本の学生リーグに当てはめて、乱暴な言い方をしてしまうと(しかもここ数年学生リーグを拝見していないので、あくまで想像で物を語ると)、恐らく東大や一ツ橋の様に、身体能力で劣るが賢い(&得てして達成動機と学習能力が高い)選手の多いチームにとって有利なスポーツになっていたと想像する。逆に、比較的延髄反射で自由にその場の発想で伸び伸びとプレーする事が「相対的に」得意な体育大学系/体育学部系のチームからすると、ちょっと歯がゆい感じなってしまっていたんじゃないかと。)

という背景を踏まえ、これまでJohns Hopkinsの元All American Goalieで、ESPN & IL解説者のQuint Kessenich氏は、まずはスティックをよりボールの落ち易い形に戻す事を提唱し、Paul Rabilを始めとした、NCAAとMLLと国際ルールを経験した多くのプロ選手たちは、ショットクロック導入を声高に主張して来た。

これまでNCAA側も慎重な姿勢を見せて来たが、今週末にBaltimoreで行われるDiv 1数校による練習試合で、2013年のルール改変に向け、NCAAルール検討委員会として、試験的にいくつかのルールを試してみる、という話。

具体的には、
  • いくつかのショットクロックルールのテスト: 60秒、70秒、及びストーリング警告から30秒以内の3パターン
  • クリアクロックの変更: 現行の30秒でattack area(restraining lineとattack lineに囲まれたゴール周りのエリア)にボールを運ぶ、だが、今回は更に、20秒以内にハーフ越え、更に10秒以内にattack areaまで、というルールを試す
  • フライの変更: ボールデッド時のみフライ可能(でもシュートチェイスは除く)
  • Extra-man時のフェイスオフ: Man-downのチームでwing & centerでフェイスオフに参加出来るのは2人のみ(これによりより確実にMan-upチームボールになり易くなる。Man-down側からすると、F/Oをぐだぐだにして時間を潰すという作戦が取りにくくなる。これまでだと、仮に3分間EMOになっても、結局1点は取れるが、その後はF/Oがあるのでそれで終わり、となっていたのが、高い確率でOFボールになるため、長い時間のEMOの持つ重みが変わって来る。)
  • オフェンスバイオレーション/オフェンスファウル時の相手ボール: 現行ではDFにボールを渡す際に、DF側がattack areaの外に出てリスタートするまで待っていたが、これをやめ、その場から速攻でリスタート出来るようにする。(サッカーに近い?)これにより、OFの反則直後のDFによる速攻での反撃の機会を増やす。直感的に、クリースバイオレーション直後のゴーリーからのリスタート速攻が一気に増える気がする。
などなど。

これはあくまで実験であり、これらが全てそのまま2013年に実施されるとは全く思わないが、NCAAがまじめに実験を始めているというのは特筆に値するし、今後のラクロスのルールの行方を占っているとも言える。

直感的に、ショットクロックは、若干の戸惑いやダウンサイドもありながらも、見る側もプレーする側も思ったより出来るし、楽しかった、なんて感想になり、「だったら導入しようや」という方向は強まる気がする。仮に13年に導入されなかったとしても、更に議論と実験を積み重ね、次々回の15年では確実に現実的な導入が検討されるんじゃないだろうか。

これまでもラクロスのルールをリードしてきた、そして今もしているNCAAのルール変更。間違い無く日本を始め世界のラクロスのルールに影響を与える物と想像する。今週末の練習試合でNCAA側がどういう感想を持つのか、注目してみたい。

僕個人の意見としては、NLL、MLLを見て感じるスピード感、ダイナミックさ、興奮からすると、ショットクロック導入には賛成。そして、個人的には、「戦術面の面白さがなくなる」、「プレーが雑になる」、「ラクロス本来の面白さが無くなる」という意見は余り買わない。

NLL、MLLの感覚から推察するに、それらのダウンサイドも無くはないが、やってみたら恐らく心配していた程でもなく、アップサイドの方が遥かに大きい、という結果(違った形での戦術の面白さは依然厳然と存在し、プレーはスピード感と精度を併せ持った物になる一方でミス後のプレー/メンタルの切り替えが異様に早くなり、ラクロスの別の面白さがより大きくハイライトされる)になるんじゃないだろうか。

以前の「スポーツとしてのラクロスの改善余地」の記事で、何を目的/軸にして議論するかが大事だと書いたが、スポーツとしての発展/拡大を目指すなら、必然の進化じゃないかと感じる。

それこそ、ヘルメット着用、ロングスティック、木製から現行のスティール&プラスティックのスティックへの移行、30秒クリアルール等も長い歴史の中で少しずつ付け加えられて来た訳で。その都度「伝統が!」と反対して来た関係者は多くいた筈で。これまでも全く変更/進化の無い伝統芸能では決してなかった訳で。10年もすれば、今の僕らですら「ああ、ショットクロック無しの痛い時代もあったねー」となり、ショットクロックありのNCAAしか知らない世代が大人になれば、「は?そもそもラクロスにショットクロック無い時代なんてあったの?全く想像つかん...そんなの成り立つの?そんなんリードしたらボール回しまくって終了じゃん。絶対面白くねえよ(ま、ぶっちゃけ少なからずそういう面もあるし...今年の決勝のVirginiaもある意味そう。)」と、正に今のバスケのような状況が訪れても驚かない。

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