2011年4月20日水曜日

Zone DFの時代 vol.01 ESPN Lacrosse Podcast 4/12

ESPN Lacrosse PodcastでQuintがまたしても超タイムリーに皆が気になってる事をコーチ達に聴いていてくれたので紹介。これ、今までのPodcastの中でも特にintellectuallyクソ面白い。(リンク

今シーズンが始まってTVや会場で試合を見ていて「おやっ?」と思わされた/非常に気になったのが、Zone DFの隆盛。Hopkins、North Carolinaなど若いチームに加え、Virginiaまでもが積極的にZone DFを使い始めており、それ以外にもかなり多くのチームがZoneを採用している。そして、実際にそれがかなり効果的に働いているという話。僕自身現役時代にZoneに対峙する機会は正直余り無かった事もあり、知的好奇心を強くくすぐられたので。

どうでしょ、既に7-8年日本のラクロスの試合観戦から遠ざかってしまっているので、どうなっているのか全く肌感覚で理解していないが、日本も少なからず似たような傾向があったりするんじゃないだろうか?

インタビューされているのは、Hopkins HC Coach Petro (Dave Pietramala)、Denver HC Bill Tierney (元Princetonで6回優勝)、VMI (Virginia Military Institute) HC Brian Anken。Quintがいい質問を投げまくって、HC達がZone DFをどう見てるのかをがっつり訊き倒している。特に、Why?の部分の分析が恐ろしく面白い。

仮説だが、この辺のZone DFがポピュラーになっている裏にあるメカニズムを理解すると、今後5年10年の時間軸で大局的な流れを見ると、(今後ルールやスティックの構造が大きく変わったりしない限り)これはどう考えても今後Zoneが効果を発揮し、より頻繁に使われるという大きな流れは進む事こそあれ、戻るとは考えにくい。ファンにとっていいか悪いか、選手として楽しいかどうかは別として、間違い無く勝つための手段としては重要さを増し、ますますラクロスの基本/日常に食い込んで行く気がする。議論のために敢えてExtremeなシナリオを考えるなら、場合によってはZoneの方がMan-toよりもメインストリームになって来る事すら考え得る。

以下、3人の言っている事をメッセージドリブンで構造化。

現象面で起こっている事① Zone DFの異常な程の隆盛
  • 上述の通り、今年のNCAA Div 1でも頻繁に目にするように。身体能力に優れスピードのあるACCのチームですら採用。(→感覚値だが、今年のTV放映されている試合の3分の1以上で、どちらかのチームがZone DFを試合の全体または一部で採用しているイメージを受ける。)
  • 今まででは考えられなかった事だが、高校レベルでも結構定石の戦術として頻繁に登場するようになって来ているとの事。
  • で、いずれのケースでも、実際に効果を発揮している。試合に勝っているケースもあるし、仮に勝ってはいなくても、本来であれば大差で負けていた試合を僅差に持ち込む事に成功している。
  • 昨年のMLL All Starでの、10 US代表対MLL All Starの試合でも、即席寄せ集めのMLLチームが当然Man-to-manのシステムや連携など望むべくもなく、やむを得ずZoneを採用。そしたらそれが普通にハマってしまい、US代表と接戦を演じる事に

現象面で起こっている事② 更に、進化し続けている
  • 既存の教科書的Zone DFだけではなく、いろんなバリエーションが生まれている
  • Combo、つまり、Man-to-manとZoneを組み合わせたり
  • Zoneだけど、ちょっとトリッキーなエリア分担/カバーの仕方をしたり
  • 使い方も、一試合通してではなく、状況や局面に応じていきなりZoneに切り替えたり、やめたり、数種類の違うゾーンを使い分けたりと、自在にスイッチ
  • (→特に試合を見ていると、大事な場面でTime out後にZoneにし、それを見たOFチームが再度TOを取り対策を練り、そしたらその隙にDFがまた違うZoneにしてて、みたいな駆け引きが結構見られる。)
  • 90年代以降NCAAラクロスの戦術をリードして来た元Princeton/現DenverのBill Tierneyですら見た事の無いZoneと遭遇すると言っていた

何故Zone DFをやるのか?:DF側の目的/意図
  • 危険な位置でのどフリーを作らせない。特に、抜けて点を取れる強力なOF選手が複数人いるチームと対峙する時に。Man-toだと確実にカモられるマッチアップが複数箇所生じるような場合でも、Zoneなら全員でカバーするので、どフリーを防げる
  • 試合のペースを抑えて、トランジッションを減らし、ロースコアな展開に。同じく、明らかに身体能力/得点力で敵わない相手に対し。(→なので、当然、Syracuse、Virginia、Marylandに対してZoneを採用するチームが多い)
  • オフェンスのスピード/テンポを抑えて、(若い/経験で劣る)自チームに落ち着く暇を与える
  • より短期的/局所的に、「目先を変える/相手を混乱させる」。単純にOFが「おっ?違うことやってきてるぞ?」と立ち止まったり「俺Zone苦手なんだよなー...」と揺らいだりさせる
  • 相手に「考えさせる」。このBill Tierneyの話、非常に示唆深いと感じた。よく、練習や試合で上手く行かなかったOFの選手と話す時に選手が「I think...(だって、こう考えたんですよね...)」と答えた時に「Don't think! Just play!」と言ったりする。(フィールドの外で左脳を使って効率的に上手くなる事は大事だが)実際に試合ではいちいち理屈で考えてたら上手く行かない。実戦のフィールドの上では、これまで練習や経験で培って来たものをベースにして、下手に大脳で考えるのではなく、本能の赴くままに、ナチュラルに、流れに乗っかってプレーするのが結局一番スピード/テンポが生まれて上手く行く。逆にZone DFではそれを断ち切り、相手に「考えさせる」効果がある。考える事で個々の選手の本来の良さが発揮出来なくする
  • (→これ、完全に個人的な想像の域を出ないが、恐らく日本でも日体大や早稲田など体育推薦系のナチュラルアスリートが多いチームなどには特に当てはまる部分が多いんじゃないかと想像する。)

何故Zone DFが盛んになっているのか?:その背後にある環境要因/環境変化

OF側の変化
  • 一番大きい要因として、OF選手の個々人の攻撃力の向上。そして、その層が分厚くなっていること。一人で確実にマークマンを抜け、更にスライド1-2枚交わせ、かなり正確で速いシュートを打てる選手が6人フィールドにいる、という状況が多く生まれて来ている。
  • 裏にあるスティック形状の進化。Curving head/offset、及びPinch(細くシェイプすること)が突き詰められた結果、ボールダウンさせるのがほぼ不可能になって来ている。
  • OF選手たちのサイズのアップ、身体能力の向上、も勿論ある。Hopkinsの#42 Kyle WhartonやMarylandの#1 Grant Catalinoのようなでかくてかなり動けるATたちや、Paul Rabil、Hopkins #31 John Ranaganみたいな違う生物/ビースト感満載のウルトラアスリートが結構ごろごろいる世界。
  • 結果、昔のように、詰めてチェックしたり、抜かれてトレイルチェックして落とすと言う事が極めて難しくなり、(よっぽど相手OFと力の差があるのでない限り)それをやる事がリスクを取り過ぎたダメなDF、と言うことになってしまった。
  • 従って、DFとしては、とにかくどの一人に対しても、「スカ抜き」/完全なフリーを与えたく無い、与えたらオシマイな状況になりつつある
  • 特に、今年のMarylandの様に、上級生が多く、攻撃力の高いAT/OFMFが分厚い上に経験値も高いチームなどは尚更
  • (→NCAA Divほどcompetitionが突きつけ詰められている訳ではない日本でも少なからず似た状況はあるんじゃないだろうか?)

DF側の変化
  • 昔に比べてサイズが大きくて、機動力の高いathleticなDFが増え、個々人が物理的にカバー出来る守備範囲が大きくなりつつある事。これにより、Zoneの隙間が生まれにくくなった。(→UNC#24 FlanaganやNotre Dame #35 Ridgwayなど、2m級の超動ける手堅い人々がいい例)
  • Goalieの平均レベルが向上し、シュートに対して準備出来てさえいれば、外から、または薄い角度からののシュートをかなり確実に防げるようになった事。これにより、Zoneでとにかく至近距離/どフリーで打たせないことにフォーカスし、外から/薄い角度から積極的に打たせた方がより高い確率で止められる、という状況に。

環境面の変化
  • 人工芝(アメリカ的に言うとAstro turf)が増えた事により、また芝生のグラウンドであっても昔のようにボロボロの土のグラウンドが減ったため、伝統的にZone DF破りとされて来たロングシュートに於いて効果的なイレギュラーバウンドを意図的に狙ったバウンドショットが余り効かなくなって来た。Goalieも人工芝でシュート練習を十分に積んでいる結果、バウンドショットをほとんどノーバウンドのシュートと同じ様に軌道を予想して止められるようになりつつある。

Zoneの流行により、結果として起こっている事

試合のペースの変化
  • 少しだけトランジッションでリスクを取って点を取りに行くため、トランジッションでの点が増える(これはファンにとっては楽しい事)
  • 確実に6 on 6のペースが遅くなり、set offenseでの得点数が減る(これはファンにとっては残念なこと)
  • 結果、試合全体のペースが一段遅くなり、総得点数が減る(確実に残念)

また、試合の勝敗に於ける戦術/コーチの重みが増え、選手個々人の能力の重みが相対的に軽くなるという側面も

また、面白い所では、高校レベルでも特に上位チームでは採用され初めていることにより、リクルーティングする大学チームとしては個々の選手の本当の能力の見極めが難しくなっているという悩ましさも生じているという...(逆にZoneをしっかり出来る賢いDF、Zoneをしっかり攻略出来るmatureなOFを見極めるという点では意味があるとも言えるが...それはどっちかというとtrainableな側面が強いので、純粋な素材としての能力を見極めるという意味ではやはり悩ましい...)

OFの視点:Zone DF攻略法
  • 現実的に、ペースは遅くなるし、やりたい事が出来なくなったり、強い個が一人で得点を作る、と言う事がやりにくくなる。
  • 経験が薄いと、メンタルに動揺したり、焦ったり、(DFの狙い通り)「考え過ぎてしまう」という事が起こりうる。
  • 特に高校時代までスター選手としてガンガン相手を抜いて得点して来たような若いOF選手の中には強いストレス/フラストレーションを感じるケースも。(→超想像つく...)
  • が、大事なのは、テンポとゴールへの攻撃性は犠牲にする必要は無く、維持する事。一方で、Patientにやること。もう一歩多くパスを繋ぐ、とか、本当に確度の高いシュートを打てるまで我慢するとか、時間をじっくり掛けてやる覚悟を持つ事。
  • Zone DFも決して無敵じゃないし、万能じゃない。必ず弱点がある。そこを攻めるのがコーチの役目。
  • もし通常のZoneと違うトリッキーなZoneと遭遇したら、しっかりコーチと選手が様子を見て、見極めて、攻めどころを見つけること。

2 件のコメント:

  1. NCAAの映像ありがとうございます。
    僕もMaryland-UNCの試合見たり、inside lacrosseの記事でも取り上げられていたので、2011年にZone-DFが威力を発揮してるな、とは感じていました。特にMaryland-UNCの試合ではZone-DFがはまっていて、DFとして見ていてかなり面白かったです。
    この試合みて、日本のZoneに比べてDFが結構押し上げたりしてるのは、日本よりOFのシュートレンジが広く、精度が高いということも要因かな、と
    思ったりしました。

    たまにpodcast聞いてましたが、この回はぜひ聞いてみます。

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  2. 玄徳
    いいね!
    Zoneなんて超東大向けっしょ。やるのも攻めるのも。ちょっとトリッキーなのやるにしても。
    やっちゃって!
    いたる

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