2011年1月1日土曜日

IroquoisのThompson兄弟

引き続き、休み中にガッと書き留めた/吐き出したネタを随時小出しにポスト。Inside Lacrosseの10月号にSyracuseの4年生MFで去年のAll American、Iroquois代表のJeremy Thompsonを始めとしたThompson四兄弟の話が出ていた。(Iroquois、及びSix Nationsの解説は以前書いたWLCのIroquois Nationalsの記事をご参照下さい。ざくっと言うと、米北部に住むNative Americanの子孫。コミュニティぐるみで部族の伝統であるラクロスを生活に根ざした形で伝承する。)
  • ILの表紙と記事はこちら。
  • あと、Thompson兄弟の写真はこちら。Magazine: Thompson brothers photo shootのところ。写真番号で19番以降が実際にプレーしている絵。動きがナチュラル過ぎて野生動物の身のこなしみたいに見える。それがまた超style出ててカッコいい。
非常に興味深く、また心に残る記事だったので簡単に紹介させて頂きたい。

Iroquoisのラクロスとの繋がりの深さ
  • 兄弟四人でTシャツ短パンに裸足でメットもグラブも付けず、裏庭の芝生の上で遊びで2 on 2やface offをやって遊んでいる写真が載っていた。無邪気な顔をして兄弟で戯れる姿、時として真剣な目も見せる。正に典型的なIroquoisの日常を表している
  • 文字通り生まれたときからスティックを与えられ、遊びと言えば基本的にはスティックとボールを使ったラクロス。一日中いろんな投げ方でキャッチボールをしたりシュートを打ったりして育つと言っていた。そしてそれが普通の育ち方
  • 先日同じくOnondaga出身で昨年のSyracuseのエース、Codie Jamiesonのインタビューでも同じ事を言っていた。ラクロスが日常で、それが当然の行為だと。(ちなみにJamiesonは先日NLLの地元チーム、Rotchesterと10年契約を結んだ。10年て...聴いた事ねえ...)
  • 子供の頃からインドアを中心にリーグでプレーし、過去にも多くのNCAA選手、NLLのプロ選手を輩出している。

地元Syracuseとの繋がり
  • Upstate NY(NY州北部)からカナダ国境沿いにあるNative Americanのコミュニティのreservation(保護区)に彼らは住む
  • 子供の頃からインドアを見て、そしてSyracuseの勇姿をCarrier domeの会場で見て、Syracuse Orangeのユニフォームを着る事を夢見て育つ子供たちも多い
  • SyracuseにはNative American向けの奨学金制度があり、代々Iroquoisの優秀な選手を取っている
  • DVDで見ると一目瞭然だが、SyracuseのラクロスはHopkinsやMarylandといった教科書然とした南のラクロスとは明らかに一線を画す。よりCanada臭さ、インドア臭さを持った、高いstick skillとcreativityによって支えられた、ファンタスティックラクロス。その裏にはこの地域性、CanadaやIroquoisからの選手のパイプラインがある

Thompson家の4兄弟
  • NY州北部、Syracuse大学から車ですぐのreservation(保護区)に住んでいるコミュニティの一員。そこにあるThompson家。父親も有名なラクロス選手。
  • 長男 Jerome: Under Armour High School All America
  • 次男 Jeremy: UA All America, IL player ranking(全米高校生ランキング)No. 4, 現Syracuse 4年, Iroquios代表
  • 三男 Miles: UA All America, IL ranking No. 16, 現Albany 1年、Iroquois代表
  • 四男 Lyle: US All America, IL ranking No. 1, 来年Albany入学予定
  • なかなか錚々たるレジュメ。4人とも子供の頃からラクロスエリートとして頭角を表し、イラコイのみならず全米のラクロスコミュニティの中でもその名前が認識され、去年のJeremyのSyracuseでのブレーク、MilesとLyleのUA All Americaでの突出したスキルで一気に一般のファンの間でも有名になった

Iroquoisのラクロス選手たちが直面するチャレンジ
  • Iroquoisの有能な選手たちも、必ずしも皆がみんな簡単にアメリカの大学に行き、ラクロスで成功する訳でもない。それまでには多くのネイティブアメリカンならではの障壁に直面し、才能を開花させることなく散って行く者も少なくないと言う
  • 言語の違い: コミュニティの中では彼らのnative languageを使っている。従って、当然大学受験も大変だし、仮に入ったとしてもハンデを負った状態。Jeremyのインタビューを聴くとアクセントがあり、英語が1st languageでは無い事が解る
  • 教育システムや文化の違い: 要は外国からいきなりアメリカの学校に行くようなもの。そりゃチャレンジングだ
  • 経済的チャレンジ: コミュニティとして、資本主義経済にがっちり入ってホワイトカラー中心で、という感じになってはいないはず。1次産業、2次産業従事者が多いんじゃないだろうか
  • 結果としての、学力的チャレンジ: 多くの若い選手たちが大学への入学、編入で苦戦するという
  • アルコール依存症: また、記事に、Iroquoisの男性のアルコール依存症の出現率が一般よりも高いと書いてあった。教育や経済基盤の違い、文化の違い、社会的なチャレンジからだろうか。
  • そして、コミュニティ内にある保守的な考え方: ラクロスの力を使ってコミュニティを出て、アメリカで大学教育を受け、より良い仕事、より幸せな人生を手に入れるのはいいことだ、というリベラルな考え方もある。一方で、年配の方を中心に、「アメリカの大学なんぞに行ってもいい事なんか何も無い、外の世界に被れて帰ってくるだけだ、親としては子供をアメリカの大学にやったら二度と帰って来ないと思え」的な保守的な考え方もあると書いてあった

長男Jeromeのチャレンジ
  • 長男のJeromeも高校時代から注目されていた選手で、どこの大学に行くのかが注目されていた
  • が、結局、Syracuseを目指すも、高校、Onondaga Community Collegeで勉学面で付いて行けず断念する。何度も学校の授業に適応しようと試みたが、全く理解出来ず、結局諦めざるを得なかったと
  • Iroquoisの能力もあり将来を期待されるラクロス選手がアメリカの大学に行くのが簡単ではない事を端的に物語るエピソード
  • そして今は学校を経由せず、直接NLLのプロを目指して試合と練習を続けているという。是非成功して欲しい

次男Jeremyのチャレンジとbreakthrough
  • 同じく子供の頃からの憧れ、Syracuseを目指し続けていたが、入学時には学力の問題から断念。一度地元Onondaga Community College(短大)で活躍しながら、学力向上を目指す
  • しかし、プレッシャーも有り、Native Americanの男性に多い問題である、アルコール依存症になってしまい、人生からドロップアウトするかに見えた
  • その後、夢を捨てきれず、奇跡的にそれを乗り越え、勉強も努力の末克服し、遂に憧れのSyracuse入りを果たす
  • 昨年2月のDenver戦、最初にSyracuseで決めたゴールは、彼にとっても、家族にとっても、そしてIroquoisのコミュニティ全体にとっても大きな意味のある一歩だった
  • Syracuse入学後のインタビュー。憧れのチームでプレー出来ることの幸せに溢れた笑顔が印象的。試合中のあのシリアスな表情とは打って変わって、無邪気で明るい青年という印象。
  • プレーを見ると、Native Americanの末裔としての気品と言うかオーラと言うか迫力が漂う。Iroquoisの伝統を守った後ろ髪を三つ編みにしてメットの後ろから出している姿も渋カッコいい。2010年のInside Lacrosseが選ぶ、"Sweeterawaraton"賞=「最もカッコいいで賞」に選ばれていた

Jeremyが変えた事
  • 彼の成功がIroquoisのコミュニティに与えたポジティブなインパクトは計り知れないとのこと
  • 去年の決勝での同じくIroquois出身のAT Cody Jamieson (現NLL/MLL)やDF Sid Smith (現NLL/MLL)の活躍とも合わせ、多くの若い選手たちが「俺たちにも出来る!」と勇気を貰っているという

弟のMilesとLyleが変えた事、そして新しい流れ
  • さて、弟たち。MilesとLyle。Milesは先日のUnder Armour All Americaの北軍代表として、一人際立って成熟したstick skillを見せた。また、現在高3のLyleは全米最高の高校生と評価されている。その二人がどの大学に行くのかは大きな注目を集めていた
  • が、Milesは何と大方の予想を裏切り、Syracuseでも他の強豪校でもなく、中堅校(30位前後)のAlbanyを選択。多くの関係者を驚かせた。しかも同級生で従兄弟のTy Thompsonも引き込み、弟のLyleにも来年来るように説得。その後に続く有力な若い選手たちに一緒にAlbanyに来るように説得していると言う。
  • Miles曰く、Albanyのヘッドコーチ、Scott Marrの熱意に惹かれたのと、「これまでのSyracuse有りきの規定路線じゃ面白くないので、何か新しいことをやってやりたかった」とのこと。なるほど...面白い。
  • もしかしたらAlbanyが同じくUp state NYの地元にあり、チームカラー(黒、紫、黄色)がIroquoisと全く一緒だったってのも効いてたりするのかも知れない。
  • 彼らは今年一年生で確実にAlbanyの主力として試合に出てくるはず。1年目はさすがにlong stickへのアジャスト、一段上のレベルへのアジャストに当てられるだろうが、来年、再来年となるに連れ、大きなインパクトを生んで行くだろう。今後どうなるか非常に楽しみ。Albanyが数年後にはDiv 1を掻き回す台風の目になってくる可能性がある
昨夏のWLCでは、この辺のメンツが入ったIroquoisが見られる「はず」だった。例のパスポート問題(Iroquoisのパスポートをイギリス政府がパスポートと看做さず、入国出来ないというアクシデント)さえ無ければ。これもある意味Iroquoisの選手が受けるマイノリティならではの苦難だったとも言える。であるが故に、彼らの試合が見られなかったのは本当に残念でならない。インドアWorld Championshipと、次回のWLCに期待。

以下、いくつかJeremyとIroquoisの映像

①昨年のRutgers戦での得点


②インタビュー。相方のCody JamiesonやJohn Deskoもコメントしている


③衝撃のface-offから6秒でのゴールと、その解説。相手face offerの右足の位置を見て、右横に脚を引いてなければ、相手の背中側に直接かき出せと。秒殺で相手を斬り捨てる、侍の居合い抜きに近い印象を受ける。


④Iroquoisのラクロスの伝統と、地元Onondaga Community Collegeの話。文字通り生まれた瞬間にスティックを与えられる話、素晴らしい選手の多くがアルコール依存症で潰れてしまう話など。OCCのプレーがSyracuseに負けず劣らずファンタスティックなのが良く解る。


⑤ハードコアで心に刺さるドキュメンタリーを数多く作っているUKのNational Geographic ChannelによるIroquoisの特集。ラクロスがただのスポーツではなく、生活であり、spiritであり、伝統であることが子供達の映像と共に紹介されている。スポーツが、ラクロスが人を作り、コミュニティを創る。あと、Wood stickの作り方を職人の肩が説明していて非常に面白い。


彼らを見てとにかく印象に残るのは、遊び、競争、生活、アイデンティティとして、心底ラクロスを楽しむ姿。躍動する体から発せられる喜び、そして笑顔。改めて、自分が大学で出会ったこのラクロスというスポーツは、他の球技には無い特別な歴史と意味を持つ、spiritualで素晴らしいスポーツだったんだと思い知らされる。

どうでしょ。もし興味があってイラコイ辺りに人生勉強も兼ねてラクロス留学してみたいという現役の選手がいらしたら、気軽に連絡下さいな。一緒にどうやりゃ実現出来るか考えるくらいはお手伝いさせて頂くので。

いたる@13期

2 件のコメント:

  1. いつも楽しく読ませて頂いてます。24期の上野といいます。Jeremy Thompsonにそんなストーリーがあるとは。。。相変わらずめちゃ面白いです!lax tipsにコメント書いたので暇な時見といてください!では次の更新を楽しみにしています!

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  2. 上野くん、
    さんきゅ!Lax Tips掲示板の方もありがとう!

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