2011年1月28日金曜日

スポーツとしてのラクロスの改善余地

大分前の号になるが、Inside Lacrosseの8月号に面白い記事が載っていたので紹介。(2010年8月号のリンク記事のリンク

"9 ways to improve lacrosse"、スポーツとしてのラクロスをより良くし、もっと人気を出して大きくしていくためにはどうすればいいか、という特集記事。有名なコーチや選手にアンケートを取り、またILの記者達の意見も入れて作ったアイデア。必ずしもファクトベースで戦略立案のプロが作った物でもないし、どちらかと言うとビール飲みながら飲み屋で、またはロッカールームでくっちゃべる話の延長で面白おかしく書いた面もある記事だろうから、全てがシリアスで正しいとも限らないが、いくつか非常に同意出来るものがあったのと、また今後のラクロスのルールや、競技やエンターテインメントとしての進化の方向性を暗示するものがあったのでピックアップして紹介。

ちなみに、9 waysとして実際に記事で紹介されてたのは、以下。
  1. Showcase the game(もっと大規模スタジアムでの集客試合[例: Championship WeekendやFace off classic, Big city classic]をやり、全国ネットのTVで流せ)
  2. Face-offを変えろ
  3. 試合をスピードアップしろ
  4. 統計/データをもっと上手く使え(野球みたいに)
  5. Overtime(延長戦)のやり方を変えろ("Brave heart": オールコート1 on 1、タイムアウト廃止など)
  6. NLL, MLL, NCAAがもっと足並みを揃えろ(シーズンの重なりなど)
  7. Box lacrosseをもっとアメリカでもプロモートしろ
  8. メッシュを廃止してトラッド(traditional leather strings)に戻せ(???なぜ...?これネタでしょ)
  9. プレーオフを整備せよ(NCAA Championshipがあるのに、カンファレンスごとのプレーオフがあるのは無駄)
一つ一つを一歩降りて考えてみる...

まあ、1. Showcase the gameに関してはマーケティングの一プロセスとしては当然やるべきで誰も反対しないだろう。イニシアチブを取っているNCAAとInside Lacrosseは完全にこの方向にコミットしているし、現に早速今年から南部のFlorida州JacksonvilleでDukeとNotre Dameと地元Jacksonville大学をフィーチャーした"Sunshine Classic (LAX IN JAX)"を開始する。

6. MLL/NLL/NCAAの整合性9. Playoff整備はオペレーションレベルで淡々とやるべき事で、異論は無いだろう。6に関しては既に今年からMLLのドラフトをNCAA開幕前にずらす等、いい感じで連携が取れ始めている。が、まあ、共に試合そのもに対するインパクトは恐らくマイナー。

5. Overtime変更はまあ、一つの考え方だけど今の延長戦でも特に大きな問題は感じないので、必要性が薄いだろう。4. Statsはチームレベルで自ずとやるだろうし、スポーツ全体のstats情報強化の流れの中でリーグ/メディアレベルで自然と加速されて行くだろう。8. Trad復帰はどちらかと言うとネタとしてトリッキーなのを入れてるだけに見える。実際にはこれが起こることはまあ無いでしょ。

一方で、結構So what?/implicationがあるなと感じたのが、2. Faceoff変更, 3. 試合のスピードアップと7. Box Lacrosseの普及。なので、以下、ちょこっと広げて議論。
 
(ちなみに、一瞬脱線するが...20代に戦略コンサルティングの世界でロジックを骨の髄まで叩き込まれて来た自分としては、この9項目、軸の切り方、項目を切り出す際の「定義」が混乱してて相当気持ち悪いリストだ…「誰にとっての」(トッププレーヤー、一般プレーヤー、OB、観客/視聴者、リーグやチームのオーナー、etc.)×「何の目的」(競技人口の拡大/普及、ビジネスとしての成功、プレーヤーが競技する上での楽しさ、etc.)に基づいた議論かが定まっておらず、多くの軸がぐちゃぐちゃに混在しまくってて議論の鋭さと深さを削いでいる…リンゴやバナナの善し悪しとキリンやライオンの善し悪しをごちゃまぜに並べちゃっているという...ま、んな細かいこた気にせずに飲んだくれながらあーだこーだいろいろ議論して楽しみゃいいじゃんって話なんですが…)

まずは、今後のメインストリームのフィールドラクロスのルールの方向性を暗示する、2. Fix the face-off3. Speed the game upをもうちょい分解。

2. Fix the face off

ここ数年face offについては相当な議論がなされている。もちろん、face offこそラクロスらしさ、という意見も多い。一方で、反対意見も結構ある。

簡単に言うと、問題意識としては、今の形式のface offがラクロスを面白くなくしている面がある、というもの。端的には、
  • ①純粋なスキルの戦いだけじゃなく、フライイングや相手のスティックを指で抑えたりと、cheating(ズル/インチキ)の要素が公然と入って来てしまっている
  • ②ボールや相手のスティックを地面に押し付けたまま長時間(時には30秒ぐらい)膠着することがあり、つまらない上時間の無駄
  • ③ラクロスを知らない観客からすると何が起こっているか解りにくく(バスケのジャンプボールなどに比べても)、ラクロスへの取っ付きにくさを助長してしまっている(よくMMA/総合格闘技の黎明期にグラウンドの攻防が同様の事を言われていたが、最近はほとんど議論されなくなった。アップやスローの映像を通し、技術解説の質が上がり、オーディエンスの観戦スキーマが出来る事で「よくわからん感」が無くなったためだろう。一方でface offが同様のレベルに至るとはちょっと考えにくい。)
  • ④先日のFOGOの記事でも述べたが、そもそも得点後に相手に優先的にポゼッションを与えない事自体が不公平/不均衡を助長して面白さを減らしている
といった辺りだろうか。どれもそれなりに当たっている面もあると思う。

提案されていたソリューションは、
  • バスケのジャンプボール形式(解り易いし早い)
  • そもそもface offを無くす(サッカーのように失点チームにポゼッションを与える)
  • 数メートル離れたところからビーチフラッグのようにボールを取りに行く
  • 現行の"set"-whistleから、昔の、"down"-"set"-whistleに戻す(インチキのフライイングが減る)
などなど。

face offそのものが無くなるというのはちょっとradical過ぎるし、ラクロスの良さや伝統そのものを失うことになるので余りrealisticとは思えない(し、個人的にも賛成じゃない)が、現行のルールに何らかの変更が加えられて行くのは必然の流れなのかも知れない。

より変化に対して柔軟なNLLは早速2011年からface offのルールを変更し、ボールから8インチ(20 cm)スティックを離した状態でセットする、というルールを導入した。(更にボールが観客から見やすくなるように既存の白からオレンジに色を変更することも検討していた。最終的には今シーズンでの導入は見送られたが。)

これまでのところNLLのface offを見るに、確かにスピードアップされた様に見える。ゴリゴリの相撲バトルや膠着状態は一度も見ていない気がする。(今年のNLLのDVDを見て頂ければ解ると思うが、face offのセンターポイントの両側に、8インチの位置に白いテープでラインが引いてある。)

ゲームをより面白くするためにはどんどんルールを変えることに躊躇の無いアメリカのカルチャーを考えると、NLLでの成功を見て、フィールドでも何らかの変更が生じるタイミングはそう遠くないかも知れない。

3. Speed the game up

これも散々っぱら議論されているトピック。shot clockの無いNCAA以下の試合では、フライの時間、ちんたらボールを回す時間、要は、観客にとって何も面白くない、試合の展開にとって完全に無駄な空白の時間が多過ぎる、というもの。ボールがアライブな状況で選手交代をさせることにより試合を止める事無くスピードを維持する、という当初の狙いが、皮肉にも「フライするために試合を実質的に止める」という逆の効果を生んでしまっているという話。

これは正直非常にアグリー。MLLを見ても、NLLを見ても、shot clockがあることにより、明らかにより展開が早く、エキサイティングになっている。顧客視点で考えれば間違い無く正しい方向だと思う。去年のNotre Dameが正にnon-shot clock ruleを最大限に逆手に取った申し子だと思うが、一部の玄人受けやDF/G出身の選手受けこそすれ、若い世代の一般の顧客にウケるとは全く思えない。これは明らかにこのスポーツのルール上/構造上の欠陥だと思う。

実際にNCAAの録画DVDを見る際に、フライの時間やただのボール回しの時間を早送りして、本当にプレーが起こっている時間だけを通常再生すると、半分以下の時間で見終わり、それでいて試合の内容の9割をキャプチャー出来る事に気付く。これはユーザー視点から言うと致命的にuser-UNfriendlyで、supplier logic。忙しい視聴者、特にインターネット/マルチタスクで育ったせっかちな若い世代の顧客からすると、「だったらそこ全部ぶった切って1時間で凝縮してやってくれや」となる。

中にはもちろん年配者を中心に、「いやいや、そのボールを回す時間がまたラクロスの趣深さなのだよ」なんて言う人もいそうだが、それに付き合っていたら年寄りと一緒に滅びる相撲/プロレスの二の舞になる。(ん?この話プロ野球のスピードアップの議論で聴いたな...)

審判が自分で数えて警告する、「ストーリング」も、(特に公正で正確なルールをこのむアメリカ人からすると)相当恣意的で気持ち悪い。

ソリューションとして関係者から出ていた意見は、
  • Qごとに2度目のストーリングが出た瞬間相手ボール(そのくらい厳しくしろってことだろうが、まあ、これだとストーリングの判断が恣意的になっちゃうから多少の気持ち悪さが残ってしまう)
  • そもそもボールがアライブな状況での交代(フライ)を辞めちまえ。交代したけりゃタイムアウト取れ(ミディーの心臓がいくつあっても足りんだろうけど...)
  • 90秒shot clock導入(MLLと同じ)
  • どうやらshot clock導入はNCAAが嫌がってるみたいなので、次善の策として、少なくともフライの時はoffensive box内にボールをキープしなくちゃいけないってルールは?(VirginiaのHC Dom Starsiaのコメント。さすが、現実的)
Paul Rabilもブログでショットクロック導入に強く賛成していた。曰く「NCAAはつまらん(バッサリ)。自分もMLLに来てショットクロックがある方が俄然面白いと体感した。NCAAが導入出来ない理由が理解出来ん。バスケだって30秒ルールが導入された今、それが無かった時代のバスケなんてつまらな過ぎて寝ちゃうだろ?」と。

個人的に、全く持って同意。導入するべきだと強く思う。

NCAAがなぜ反対してるのか、何が考え得るダウンサイド/ボトルネックなのかを僕自身理解していないが(ていうか、そんなもんあるのか?)、理屈で考えるに、今のスピード/テンポと展開の早さを重視するスポーツ全体の流行、そして今後増えてくるインターネット世代の観客のニーズとして、よりスピーディーなものを求める流れは強まりこそすれ弱まることはないことを考えると、ショットクロックの導入は時代の必然、そして時間の問題という気がする。下手にショットクロック導入を拒み「伝統」を守ることで、確実に自分たちの首を締めるという構図になってしまっている。

(僕個人の超個人的なガッツフィーリングでは、いろんな議論を経ながらも、恐らく今後数年でより具体的な議論から試験的導入、3-5年の時間軸でNCAAにもショットクロックが導入され、その後数年でIFLや日本を始めとした各国のルールに反映されていくんじゃないかと読んでいる。そうなってくると、VirginiaやSyracuseのようなRun-and-gunで爆発的に点を取るチームが一気に有利になり、Notre Dameのようなスローペースのチームは死滅することになる。もちろん、本当にそうなったらNDも大きく舵を切ってRun & Gunのチームにガラッと作り替えると思うが。)

7. Box lacrosseをもっとアメリカでプロモートせよ

この点も非常に同意。僕自身も強いインドアラクロス普及擁護派。一度NLLの試合をテレビや生で見ると一目瞭然だが、正直、field lacrosseよりも遥かにスピード感があり、エキサイティング(前回の記事での紹介)。且つ、一般のお客さんにとってシンプルで解り易い。ラクロス非経験者のaudienceを虜にする力は圧倒的にIndoorの方が高い。

特にChicagoやWisconsin, Michigan, Seattleと言った、北の広大な未開拓市場があることを考えると、間違い無くラクロスにとってプラスになると思う。

シーズンをずらせば、Boston, Philly, Denverの例を見ても、フィールドとインドアはお互いに観客をフィードし合うことで相乗効果を生み、互いを盛り上げることこそあれ、cannibalizeする(共食いする)ことは無い。

また、非常にいいことを言ってるなと感じた前Denver大学HCで現ESPN解説者のJamie Munroのコメント。「Indoor lacrosseのいいところは、選手が勝手に育つ点、コーチ要らずな点。より複雑で速いコートの上での駆け引き、体の動かし方、技術を、試合を通じて自然と身につける事が出来る。才能のある選手は仮にいいコーチがいなかったとしてもインドアを通して自ずと成長し、抜きん出て、大学コーチの目に止まるだろう。この事がラクロスの競技としての入り口を大きく広げ、東海岸優位の構造を変え、NCAAの勢力図に大きな変化をもたらすだろう」。

なるほど。非っっ常に面白い。ストリートサッカーやフットサル育ちのブラジルのサッカー選手たちが最もボールハンドリングや勝負の駆け引き/maliciaに長けている話に似ている。

映画Gingaでのフットサル出身のロビーニョの話。こういうの見てるとワクワクが抑えられなくなる。

という感じ。なかなか考えさせられる記事でした。

いたる@13期

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