2011年1月7日金曜日

MLL選手製造工場UMBC

10年のMLLや、WLCに向けてのメディアカバレッジを見る中で、頻繁に耳にした話題がある。UMBC (University of Maryland Baltimore County)のトッププレーヤー輩出っぷり。解説者のQuintもよく指摘しており、去年のInside Lacrosseでも特集記事が組まれていた。非常に興味深い話だったのと、選手/コーチにとって、また一ファン/ビジネスパーソンとしても学ぶべき点があると感じたので、ご紹介。ちなみにUMBCは過去にも親善試合で何度か日本にも来ており、コーチのDon Zimmermanは日本のラクロスとも縁が深い方。

UMBC出身者の活躍

  • 昨シーズンの頭くらいからだろうか。ILやESPNで、「UMBC出身選手の活躍が目立っている」という話をよく耳にするようになった
  • 具体的には、2010シーズン時点で6人のMLL選手がおり、そのうち4人がスコアリングランキング上位25位以内、そして2人がUS代表、もう一人はMIP (Most Improved Player)獲得
  • 更に彼らの多くが大学時代必ずしもトップレベルの選手として注目されていた訳でもない。それがMLLに来て花開き、更に物凄い勢いで成長を続けている
  • 代表的なのはDenverの主力でありTeam USでも中心となった、Brendan MundorfとDrew WesterveltのATコンビ。そして、2010年に大ブレークし、Most Improved Player賞を受賞し、実質Rookie of the yearとも言われたChesapeakeのPeet Poillon(イヨン)。さらに、Terry Kimener (Chicago), Alex Hopmann (Denver), Kyle Wimer (Chesapeake)といったオールラウンダー系で活躍するMFたち

なぜそれが凄いのか

  • 別にMLLの選手数で見ればもっと多い学校はいくらでもある。Virginia, Syracuse, Duke, UNC, Hopkins, Maryland
  • しかし、UMBCが注目されるのには理由がある
  • NCAAレベルでは決してトップレベルの強豪校ではない事。例年20位前後をうろうろし、ファイナル4のChampionship Weekendにはここ30年縁がない。ぶっちゃけ「中堅校」
  • また、その裏には、学校そのものの背負うハンデも。学校としてのサイズも小さく、知名度もかなり落ちる。エンジニアリングとコンピューターサイエンスというニッチな学部が中心。大型総合大学と違い、家から通学する地元の生徒が多い。ボルティモアの郊外という、必ずしもベストな立地にある訳でもない。従って、選手を集める上で必ずしも上記の強豪校/マンモス校のような魅力を兼ね備えているとは言い難い
  • 結果、毎年集まる選手の質としては、上記強豪校からは一段落ちる。高校生で既に完成された有名選手を取っている訳ではなく、地味な選手が多い(DVDで試合を見たら解る通り)
  • にも関わらず、MLLレベルでトップ校に負けるとも劣らない人数と実績を残している。一体何がそうさせているんだ?何か秘密があるはずだ、というのがそもそもの話の発端

理由①Zimの教える基本に忠実なsimple lacrosse

  • MLLに来ている選手たちが口を揃えて理由としてあげるのが、ヘッドコーチDon Zimmermanの、超基本に忠実な指導方針
  • 例え花形選手だろうと、補欠選手だろうと、入学した瞬間から「ただひたすら基礎を固め続けるためのboot camp」を味合うことになる
  • 「シュートは必ずオーバーハンド」、「groundballは絶対に両手」、「make the simple pass。派手なパス、リスキーなパスはするな」。それらを繰り返し刷り込まれ、骨の髄にまで叩き込まれると言う。極めてシンプルな、初心者に教えるレベルの基本。別に何ら複雑なこと、高度なこと、派手なプレーは必要ない、という考え方。ある意味今の複雑化する戦略や多様化して派手になる現代のラクロスに頑固に逆行するやり方
  • しかし、Mundorf曰く「これが自分たちのMLLでの成功に最も役に立っている。大学の次のステージ、プロのレベルでは、DFは一回り大きく、上手く、速い。そんな状況では高度で複雑なプレーは出来なくなる。むしろ基本に立ち返り、シンプルで正確なプレーを確実にやることが返って重要になる。大学時代に派手なプレーで目立っていた選手が同じ事をプロでやろうとしても長続きせず結局消えて行く。シンプルにやること。基礎。それがトップレベルで成功し、生き残って行く上で最も大事なことだ」

理由②選手自身に考えさせる

  • さらにWesterveltは、「Zimは選手自身に考えさせることを重視する。選手一人一人がIntelligenceを持つ事を要求する。結果として、それが4年間を通じて習慣化される」
  • Zim曰く、「自分が選手を『創る』なんてとんでもない。自分の役割は、あくまで選手達をサポートすることに過ぎない。自分が教えた選手たちがプロとして将来活躍する。それほど嬉しいことはない」
  • その瞬間の勝ちを手っ取り早く求めた場合、役割を与え、機械的にそれを「やらせる」、という考え方もあるだろう。が、彼は(恐らく)時として目先の効率や勝利を捨て、長い目で見て選手にとって最も成長出来るやり方を取っているんだろう

理由③"Lax rats"(ラクロス馬鹿)

  • Terry Kimener曰く、「UMBCの選手たちは、一言で言うと『Lax rats(ラクロス大好き野郎)』の集団。名門校程華々しい高校時代の実績は無いが、ラクロス大好き度では群を抜いている。だから、大学時代の伸びの大きさでは負けないし、また、卒業してプロになってもさらに貪欲に吸収し、成長し続ける。
  • 「MundorfもWesterveltもPoillonも、全員に共通するのはプロに入ってから大きく成長していること。名門校出身の選手の中には大学時代の実績に満足し、大学時代の貯金をプロで切り崩す、というやり方の選手も多い。でもUMBCの選手はそこが違う」

理由④Chip on the shoulder(雑草魂)

  • また彼は、他に「負けん気」、「雑草魂」の存在も挙げる。大学時代に優勝やベスト4を経験し、多くのメディアの注目を集めた選手たちは、ある程度の達成感/満足感をそこで得てしまうのかも知れない。プロに入って尚成長し、優勝し、プルーブしようという意思を持ち続けるのは簡単ではない。
  • 一方で、UMBCの選手たちは、大学時代に見過ごされる/注目されないでいることに大きな不満を持ち続けて来た。自分たちはもっとやれることを証明したい、大学時代に果たせなかった全米制覇の夢をプロで叶えたい、名門校出身のやつらを見返してやりたいという強い気持ちを持ってプレーしている。それが長い目で見て成長や気持ちの入ったプレーに繋がっているとのこと

以下、実際にMLLで活躍しているUMBC alum(卒業生)の紹介。


具体例①最強ATコンビに成り上がったBrendan MundorfとDrew Westervelt

  • 大学で3年間共にプレーし、Denver Outlawでも一緒になり、NLLのPhiladelphia Wingsでも共にプレーし、更にはUS代表でも鉄板ATコンビとしてプレーし続けている。(つまり、7年間の間文字通り1年中一緒にプレーしているということ。二人Duke-Long IslandのDino-Greerも近いがここまで徹底していない)
  • 左利きと右利き、ダッジャーとフィーダー、スピードとパワー、等々あらゆる意味で補完関係にあり、お互いがお互いのパフォーマンスを何倍にも引き出す相性とコンビネーションを持っている。
  • 互いに切磋琢磨すると共に、長年一緒にやることで、お互いに何がやりたいかを知り尽くしている。お互いを生かし合う事で、一人でやるよりも高いレベルのパフォーマンスを生み続けて来た
  • 2010年のUS代表選出では、Duke-Long IslandのDanowskiら有名なAT達を差し置いて、NCAA時代に必ずしも最も有名な選手では無かった二人が選ばれたことに軽い驚きがあったが、今の実力、MLLに入って以降の伸び、短い準備期間の中既に完成されたコンビネーションを持っていたことを考えると納得。そして何よりもHC Presslerの下、派手さを捨てて基本に忠実に勝ちを取りに行き、我を捨てて徹底したチームプレーを求めたUS代表にとってはUMBCで叩き込まれたスタイルは正にうってつけだったのかも知れない

具体例②Peet Poillonのシンデレラストーリー

  • 雑草魂っぷり、諦めずに超粘り強く底辺から這い上がるっぷりが半端無い...
  • テレビで見たNCAA決勝に感化され、父親と共に高校にラクロスチームを立ち上げる。
  • 短大Howard Community Collegeでの2年間の活躍が認められ、当時Joe Breschi(現UNC HC)がHCをやっていたOhio Stateの目に留まり、4年生として転校し、そこでエースになる
  • そのシーズンでUMBCに負けた際に、「目から鱗が落ちた」と言う。「UMBCのラクロスは明らかに自分たちより効率の良いラクロスだった。自分たちの方が遥かに能力があったはずなのに、試合では負けた」と。「だから、そのチームを作ったDon Zimmermanの下でプレーして、その秘密を学んでやろうと思った」と言う。(転んでも決してただでは起きない...)
  • そして、UMBCでZimの教えを受け、初日から誰よりもハードに練習し、大活躍し、2nd team All Americanに選ばれる
  • MLLではBostonにドラフトされる。Bostonまで車で5時間掛けて毎週気合いで通うも、練習生としてしか使われず、1シーズン目はほとんど試合に出られぬままChesapeakeに放出トレード。
  • それでもめげずにハードな練習を続け、遂に2年目のシーズンで大ブレークを果たす。それまでNational Spotlightを浴びる事が無かったこともあり、多くのファンや関係者から「あいつ誰やねん!?」となったという話。期待されていなかったため、練習生の付けるような大きな番号、背番号57のままシーズンを戦い、それがいつの間にか彼のトレードマークになった
  • 一気に人気が爆発し、遂にPaul Rabil率いるMaverik Lacrosseと契約を結ぶ。解説者のQuint Kessenichも2014年のUS代表に入ってくると予想


具体例③雑用処理から這い上がるutility MF 3人

  • Terry Kimener (Chicago), Alex Hopmann (Denver), Kyle Wimer (Chesapeake)の3人に共通することは、自我を殺し、チームプレーに徹し、求めればどんな役割もこなすということ。Ground ballを拾ってクリアする役目、DFMFなどなど、チームに求められる役目を黙々とこなす。そして、結果として主力としてのチャンスをモノにして行く。
  • 基本がしっかりしており、派手さは無いが、オールラウンドに何でもこなせる。コーチとしても使い勝手がよく、頼りになる存在だと各コーチ


などなど。基本の大事さ、自分自身で考えることの大事さ、特に、高いレベルになればなるほどその重要さが増すという点、そして、ラクロスを愛する気持ちや楽しむ気持ち、名門チームじゃなくても気にせずに自分が今やるべき事/出来る事/求められる事をやることが長期的に見た成長と成功に繋がっているという点など、非常に本質的で学べることが多いと感じた。ラクロスだけに限らず。

いたる@13期

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