2010年12月24日金曜日

HopkinsからSyracuseに主力ATが移籍

何とも今時のNCAAな話。先日Hopkinsを自主退学したPalasek兄弟の兄、3年生ATのTom Palasekが、2011シーズン以降はSyracuseに転校してプレーする事を発表した。(記事)ここに来てHopkinsから何かとごたごたとした話が漏れて来ている。

NCAAではラクロスに限らず、アスリートの転校が結構頻繁に起こる。スーパールーキーの加入により活躍の場所を失ったり、逆に弱小校で大活躍して強豪校に呼ばれたり。はたまた監督と喧嘩したり、素行不良で放り出された選手をライバル校が拾ったり。「学生」アスリートとは言いながらも、(いいか悪いか、本人が望むか否かは別として)中には体育推薦で、大学スポーツが人生最大の晴れ舞台/頂点で後は下降するだけという選手たちも正直多いため、活躍のために場所を移るという気持ちは個人的には理解出来なくもない。(アメフト、バスケを中心に、4年間プレーだけして卒業しない/出来ない選手の割合は強豪校程多い)

「本人の自由なんだから好きにやらせりゃいいんじゃね?」という意見も多い中、「プロじゃないんだし、大学は本来教育のための場所なんだし、なんだかねえ」という意見もある。まあ、実際には別にアスリートに限らず、在学中に自分の興味の変化に合わせて転籍することは普通の学生にもよく起こることではある。日本と違い、大学はがっちり勉強する必要があり、大学名だけでなく大学の成績が後の人生でずっと付いて回るシステムのアメリカでは授業の内容に対する本人の拘りも高いという背景もあり、比較的学校側も転校に対してフレキシブルで、単位のトランスファー等の仕組みも整っているというのもある。

しかし今回の件、なかなか衝撃的と受け止められているのは以下のような点。

1. 終世のライバル校2チーム間での移籍である点

●言い方は悪いが、表面だけ見た時に、JHUのファンからすると「裏切り感」はどうしても否めない。当の選手たちは別に何とも思ってない気はするが、頭の固い(そして古い)ファンたちは結構力いっぱい悪口言ってそう...

2. AT Wharton程のエース選手ではないにせよ、スターターの主力ATの選手が移っている点

●特に、所謂司令塔AT、Quarter back, point guardとしての機能を持っていた選手の移籍。数字上のパフォーマンスに現れている以上に大きな意味を持つはず
●ただでさえ分て主体で駒不足が指摘されるBlue Jaysにとっては手痛い戦力流出

3. 理由が明らかにされていない点

●退学の発表時に掲示板でファンや一部関係者達が散々コメントをしていた。JHUは学力的なハードルが高く勉強に付いて行けなくなったとか(表向きにはこれだと言われている。が、ホントかね?そんなの本当にラクロスやりたけりゃ歯ぁ食いしばって努力すりゃなんとでもなるだろうし、そもそも入学するだけの学力は有った訳だし。そもそも兄弟二人同時にってのも変な話だ。)、悪さしたんじゃないかとか、JHUの弱さに嫌気がさしたとか(これも、どうですかね?このレベルでプレーする選手であればそんな逆境自分で跳ね返してやると皆思うでしょ...JHUが好きで自分で選んで入った訳だし。)

●ただ、個人的に、「多分そんなところだろうな」と思ったのが、Coach Petroとの確執。試合のDVDを見ると解ると思うが、このコーチ、熱いを通り越して、鬼コーチを通り越して、ちょっとイッちゃってる時がある。サイドラインで結構こっぴどくミスした選手を怒鳴っているシーンがちらほら見受けられる。これに対してはかなり意見が別れていたらしく、「んなもん昔の鬼コーチに比べりゃかわいいもんだ、我慢しろ」という年配の方の根性論寄りの意見から、「イマドキのインターネットキッズ/ゆとり教育世代(アメリカ的に言うと"every one gets a trophy" generation)の選手たちはそれじゃ付いて行かねえよ」というものまで。要は、皆の前で(時として全国ネットのTVで)辱めを受けた二人がやってられなくなって反旗を翻したという話。

●どっちが悪いとも言えないが、そのやり方で結果が出ない時代になってしまった以上、出るようにコーチとしてもアジャストするしかないというのが正しいあり方な気もする。現に最近Hopkinsはネームバリューも落ち始め、有力な選手がCoach Petroのスパルタ式の噂を聞き、それを嫌って、New typeのコーチであるUNCのBreschiやDukeのDanowski、Cornell-Penn stateのTambroniなどの個性を認め、選手を尊重し、よりコミュニケーションと権限委譲をベースにしたスタイルの監督達に流れ始めている。この大きな流れは恐らく今後も強まるだろう。

4. 近年まれに見るJHUの低迷と、Head coachのDave Pietramalaへの批判が高まる中だった点

●上記のように、今後もいい選手が取れず、チームの選手たちが萎縮し、本来の良さが発揮出来ない状態が続き、それで更にPetroもイライラして爆発、という悪循環が続けば、最悪解任というシナリオも頭をよぎってくる

●何人かの卒業生らしき書き込みで指摘されていたのが、JHUのラクロススタイルが時代遅れになり始めている点。規律のDFでしっかり守り、システマティックなセットOFで時間を掛けて点を取る。昔ながらの堅実なスタイル。昔のようにHopkinsだけにタレントが集まり、Hopkinsが戦略をリードしていた時代ならそれで通用したし、時としてNotre Dameの様に突出したGとDFを擁し、上手くハマることもあった。が、今のNCAAラクロスのトップレベルではそれで安定して勝ち続けるのは難しい。DukeやCuseやVirginiaのようにハイペースな展開で短時間で爆発的に点を取れるチームとの「点の取り合い」の戦いになった時に、やはり5点差、6点差付けられた時に引っくり返しようが無くなるという話

●Kyle Harrison, Paul Rabil, Stephen Peyserと言った、セットオフェンスをそれだけで組み立てられるぶっちぎったMFがいた時代には戦略もハマり、05年、07年と2回優勝したが、その後そういう選手が入って来なくなってしまった瞬間、一気に勝てなくなってしまった。(去年はMike Kimmelが唯一そのレベルだったが、彼一人しかおらず、孤軍奮闘状態になり、FOもDFもやり疲弊して、しかもガンガンLSMを付けられてスライドも飛ばされて、完全に機能不全に陥っていた)

5. 既にSyracuseのATがかなり分厚い点

●栄光の#22を継ぐ司令塔のJoJo Marasco, Fantasista Stephen Keogh, Coach Deskoの息子Tim Deskoに加え、強い新人も数人入ってくる。この層をさらに厚くし、競争を生む事で、チーム力を更に底上げすることになるだろう。Syracuseにとっては間違い無くgood news

●しかし、ここでSyracuseを選ぶ点からも、本人が全く逃げてないこと、本気でNCAA制覇を夢見ていたであろうことが偲ばれる。JHUでは卒業までの2年間優勝は出来ないと中にいて感じたんだろうし、かと言って確実に試合に出られる2nd tierの学校に行く気も無い、という。Syracuseでガチでやってレギュラー勝ち取って優勝して見返してやんよという気合いが感じられる。潔い。

個人的な感想

恐らくHopkinsの卒業生だろう。「HopkinsとCuseじゃ教育の質が違う。自分はJHUで得た最大のものは学問だったし、そのおかげでその後の人生も充実している。彼は移るべきではなかった。黙って我慢して受け入れるべきだった。アフォだ」という手厳しい批判コメントがいくつか見られる。若干自分の愛する母校を「捨てた」ことに対して感情的になってるようにも感じる。彼らも本心からそう思っているんだろうし、彼らにとってはそれは事実だったんだろう。

だが、どうだろ。僕が選手本人だったらどう思うだろうか。今は時代が違う。彼だってもう20歳だし、何も判断出来ない子供じゃない。子供の頃からlacrosseが大好きで、NCAAで優勝することが夢だったんだろう。その夢を叶えるために、多少の犠牲を強いてでも、周囲から白い目で見られてでも出来る事は全部やるつもりだったんだろう。「残り2年でJHUじゃあ優勝出来ないことは客観的に見て解っているし、コーチとはchemistryが合わなくて本来の実力を発揮出来ないまま終わりそうだけど、ラクロスの夢は諦めて(自分を騙して)、将来のキャリアと出身大学名獲得のために我慢すっか」と果たして思うだろうか?

「たった一度の人生だし、後悔の無いように、自分が今やるべきことを全力で追求しよう。勉強やキャリアは後からなんとかするし、自分で責任を取る。そのくらいの覚悟で俺はやってる。思い切ってベストな環境に移ろう」と腹を括る選手もいていいと思うし。もしかしたら後者のような選手の方がラクロスも、その後の人生でも花開くかも知れないし。出身大学名でその後の人生が決まる時代でもないし。多様性に溢れた時代の中、キャリアや人生なんて情熱と創造性とやりようによっては何とでも逆転は可能だし。勉強なんてそもそも自分でやるもんだし。(そもそもキャリア/学問最適で学校選んでたらJHUじゃなくてHarvardとかMITとか行ってたかも知れない訳だし。)それ以前に、何を幸せと感じるか、何にやりがいを感じるか、何をしなかったら後悔するかなんて超人それぞれだし。

いずれにせよ、本人にとっても、去られたJHUにとっても、受け入れたSyracuseにとってもハッピーな結果になることを祈ります。(公平性とか抜きに、個人的なpreferenceとしてはSyracuseを応援したいっす...)

いたる@13期

2 件のコメント:

  1. 19期 斎藤康也と申します。このストーリー、熱いっす!こそこそ読ませていただいていたのですが、今回思わず書き込んでしまいました。来年度是非、覚悟を見せたTom Palasekに注目したいですね。

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  2. 康也、
    だね。書き込みさんきゅ!

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