2010年7月25日日曜日

WLC 2010 Game Review Final USA-Canada

マンチェスター遠征組の皆からすると一度生で見ちゃってるので新鮮さは落ちるかもですが、敢えてもう一度その興奮を味わいつつ、slow replayやQuint Kessenichの痒いところに手の届く解説でさらにもう一歩深く学ぶ上ではいい素材かと。遠征に行ってないメンバーや下級生は純粋にがっつり味わって下さいませ!

以下、見所紹介。

試合全体としての背景

過去の記事でも散々書いているが、前回はCanadaが優勝し、今大会も予選リーグでの対戦ではCanadaが1点差で勝利。USはField lacrosseの本家本元として威信を掛けて相当気合いを入れて臨む試合。CanadaはHC及びメンバーのほとんどがMLLのToronto Nationalsで数年越しで作られたチームなのに対し、USは確実に大会を通し完成度を上げて来ている。

偉大な2人のGoalie対決

今大会を通し、そしてこの試合でも、二人の大ベテランゴーリーの戦い。CanadaのSandersonは36歳。2008年に脳腫瘍の摘出手術を終え、治療の最中でほとんどラクロスをプレーしていない状態にも関わらず、今大会の為にstep upして戦う。元Hopkins All America GoalieのQuintも1年半のブランクを経てこのレベルの試合でこのレベルの活躍が出来るのは奇跡としか言えないと。

一方のBrian Daughertyも同じく36歳。MLLからは引退し、Pennsylvania大でgoalieコーチを勤める。98年のWLCで優勝するも、その後2大会は怪我やチーム方針の影響で選考から漏れていた。キャリアの最後の花道として世界王者奪還に掛ける。

試合を通してこの二人の経験と技術を感じさせるセーブが凄い。二人とも極めてスポーツIQ/Lacrosse IQが高く、Competitiveな性格。DocはDFの統率力/コミュニケーション力に定評があり、「敢えてズレて構えて空いた所に打たせて捕る」などのあらゆる駆け引きの戦術の持ち主。先日のインタビューで紹介されていたが、父親が体育教師か何かでガキの頃からあらゆるスポーツのキャンプに参加し、あらゆるスポーツの「要はこの競技で勝つ上では何が大事なの?」を学んだ経験が大きく役に立っていると言っていた。

試合の見所

Rabilの2点目のロングシュート。ほぼMLLの2 point shot lineの距離から。コンパクトだが速くて正確。毎日数百本の地道な長年の個人練習の末行き着く境地。

試合全体を見ていて感じるが、ground ballへの執着と激しさがMLLと数段階違う。世界制覇に向けプライドを掛けた戦いの重みを感じさせる。

1Q 全体的にCanadaのshot selectionが良くない。安いシュートを軽々とセーブされることが多く、オフェンス時間が十分に持てておらず、典型的な「悪い時のToronto Nationals」を見てるかの様な錯覚に陥る。

1Q終了前、Canada1点目、Jrがまたしても左横からone handのdive shotをにゅるっと押し込む。こりゃあ真似しようとしても真似できんか...このサイズと身体能力、crazyなstick skillの成せる技。

2Q開始時に映るCanadaのFOer Geoff SniderのFace offのスティックのヘッドが典型的Canadian indoor lacrosseのヘッドで、槍のように細いのが映像的に印象的。FOerとしては少しでも相手のスティックの下を取れるように、そしてindoorでのfield playerとしてはひたすら高いキープ力と正確なパス/シュートを重視し、グラウンドボールの「保険」としての先端の広さを捨てる構造。Gait brothersが好んで使っていた形状。

USのAlex Smithのmotor cycle grip(バイクのハンドルを握るように両手を順手で上から被せるスタイル)も印象に残る。

US 4点目 AT/MF Ned Crotty (今年のDuke MVP)のstep backしながらのfeedと視野、Ryan Powellのクリースでの裏を取る動き。

Canada 3点目のJrの裏からの片手フィードとWilliamsのクイックすぎて見えないtap shotがThe Canadian Lacrosse。

にしても、マンチェスターのカメラクルーが慣れてないからというのもあるが、Canadaのパスワークとフィードが速すぎて、そしてフェイクが巧すぎて、カメラが何度もボールを見失いまくっており、肝心のシュートシーンが見えないケースが何度かある。

US 5点目、AT Mike Leveille、XでのDの連携ミスの隙を付く鋭いpenetrationとそこからのシュート。シュートを打つ前に一瞬Ryan Ppowellを目線を向ける事でslideを一瞬遅らせるという細かいが重要な技術。

6点目、またしても時速180キロ男Rabilのロングシュートがゴールの左横パイプの内側にガツッと突き刺さる。この決勝のこの場面で、これだけの確率でこれだけの精度のシュートが打てる。ひたすら個人練習を繰り返し、厳しい実戦をくぐり抜ける中で磨かれてきた技術。

一瞬、Paul Rabilと「両刀使い」について考える

にしても見てても明らかにDにとってPaul Rabilは本当にやりにくそう。身体能力の高さはもちろんだが、左右どちらにも抜けて、左右どちらからでもかなり危険なシュートを打てることがこの人の危険度を数段階増している。「右は完全に切って封殺する」とか、「こっち来たら一瞬でスライド」という決めごとによる対策が圧倒的に立てにくい。結果、尚の事自由自在に抜き易くなるという好循環を自ら作り出している(且つ過去のインタビューを聴く限り、この人はかなり若い頃からそれをよーーーく解った上で明確に意思を込めてそれを磨いている)。

恐らく、「少なくとも利き手に関しては」Paulくらい速く抜けるし、速くて正確なシュートを打てる、という選手はNCAAにもMLLにも比較的ぱらぱらとはいるはず。だが、それだけだと残念ながら突出した活躍は出来ない。ことMF、特にDodge + running shootのスタイルの選手に関しては、この「両方行ける」という要素がトッププレーヤーとしてのパフォーマンスを何倍にも変え得るという典型的な例。「自分の強みである利き手をより生かす為に、敢えてweak handを鍛える」という一見面倒くさくも見える事をどこまで腹をくくってやりきれるか。

もし、ある程度身体能力は高いし、少なくとも利き手に関しては自信があるのに、リーグ戦では(スカウティング&対策されて)思うように結果が出ない、下級生の頃は活躍出来てたのに上級生になってteam Dが出来てるチーム相手にはいまいち抜けなくなった、というdodgerの選手がいたら、Be like Paul!!で一念発起してweak handを利き手を超えるところまで持っていく(ぐらいの積もりで鍛える)、というアプローチは長い目で見れば間違いなく有効なはず。

僕自身Paulのでかさや身体能力、その動きが発するオーラに圧倒され、何となく「別の生き物だ...」/「こりゃ真似出来ねえな」で思考停止してしまいがちだが、立ち止まって考えると実はこういう戦略的且つtrainableな(訓練することで習得可能な)要素が隠れている事に気付かされる。

更にもう一歩広げて考えてみる…

(そういう意味では正にVirginia新4年生のShamel Brattonもこの分岐点に立っている気がする。Strong handの左は恐らくRabilよりも上。だが、現時点では残念ながら明らかに利き手Heavy。Long stickに左を切られてEarly slideされると途端に静かになるのにはこの辺の理由があるはず。格下相手にならそれでも尚クソ強引に左にぶち抜いてキャノンシュートを決められるが、Semi Final以降やMLLのレベルで爆発的に活躍するためにはここをもう一歩脱皮する必要があるように見える。彼の場合余りにも身体能力と左の技術が突出しすぎており、かなりの所までそれで通用してしまうため、大きな方向転換の必要性を感じにくいという皮肉な難しさがあると想像する…

また、完っ全に横道に逸れた私事で恐縮だが、戦略コンサルタント時代に、定量分析の鋭さやフットワークの軽さで戦っていたアソシエイトから、よりハイレベルで定性的なプロジェクトの方向付け、クライアントマネジメントが求められるシニアコンサルタント、プロジェクトリーダーとロールが上がる際に、下手に昔の強みである「足腰の強さ」に頼りすぎるが故に新しい強みを鍛える/脱皮する妨げになる、risk averseになって手堅く小さくまとめに行ってしまう、という悩ましさを経験していた自分の姿が思い出されて痛かった…

「過去の成功体験による復讐」という簡単には超えられない壁。過去の成功が大きければ大きいほど尚のこと次の進化/成長への妨げになるという。恐らく、人も組織もこの手のジレンマとは一生戦い続ける必要があるんだと思う。過去の成功を捨て、自己否定してリセットを押せるか。失敗してもいいので新しいやり方を試し続けられるか。目の前のシングルヒットを捨てて、三振しまくってでも満塁ホームランを打ちに行けるか。その勇気を持てるか。そしてそのプロセスを楽しめるか。その辺が出来るかどうかが長ーいキャリア/人生を大きく変えて行くんだと思う。と、自戒の念を感じた…)

再び試合

US DF DeerのHuntleyへのリフトチェックが奇麗に決まる。職人技。

7点目、Shortyに付かれてミスマッチのMike LeveilleがまたしてもXから今度は右にfinalizer、ヘッドフェイク、そしてシュート。こんな動きはATやMFの選手は100回見てパクっちゃいたい。

8点目のMundorfのstrong hand左のシュートの正確さ。左上の突き刺さる。シュートの多様性と上手さではこの人が世界最高か?徹底した個人練習とフィジカルトレーニング、それを支えるdiscipline(努力/規律)を感じさせる。

3Q 10分、今年のNCAA Quarter finalで散々Virginiaを苦しめたStony Brooksのエース3年生Kevin Crowleyがダッジを掛けるが、このWLCのメンバーの中で見てもデカイし上手い。これはMVP候補に選ばれたのも頷ける。直後のJrによるリバウンドからのbehind the backはもう溜め息しか出ない。

Canada 6点目のGarrett Billingsの得点、broken situationからのスペースへのポジション取り、ボールを受ける前からシュートまでのイメージが完全に見えてる状態で瞬殺でシュート。解説者Quint Kessenichの「best decision maker of lacrosse、プレーの選択の賢さと速さでは最強」という発言にも説得力がある。

7点目、Crowleyのfast breakからのゴール右前からのシュート、キャッチからスムーズにコンパクトなステップで速く正確なシュートを決める。既に今年のNCAAでも最も目立っていた1人だったが、来年はVirginiaのShamel Brattonと並んでMVP (Tewaaraton trophy)の最有力候補となることを予感させる。

CanadaのDFの狙いを定めてroll dodgeするATをアグレッシブにダブルに行きボールダウンさせる戦術が決まりまくる。特にBrodie Merrillのプレッシャーが効果的。 MLL史上3本の指に入ると言われるLong stick, Merrill。そのDの強さの秘密について聴かれたQuintのコメント、「Rangeの広さ (機動力の高さ、手足の長さ), anticipation(相手への読み), hand/eye coordination(眼や手/スティックの使い方の上手さ)」というコメントが記憶に残る。 またMerrillは世界最高Offensive long stickと呼ばれるが、今大会では予想に反しわずか2得点のみ。clear clock, shot clockが無い現行WLCルールでは速攻でリスクを取ることも少なく、やはりそうならざるを得ないか。

直後にCanadaが 8点目の同点弾!HC Daveの息子、Hopkins ‘08のKevin Huntleyのface dodge、背中を使ってtrail checkを交わすボールキープの技術。

さらにDuke ‘08でMLL Long Island Lizardsを引っ張るZack GreerがDFのスペースの隙を付くdodgeからdive shotで逆転!!この人のここぞという場面での勝負強さは尋常じゃない。

直後のCrowleyとの1 on 1でUS守護神Daughertyのanticipationとquicknessが光るセーブ。

4Q残り12分でMundorfがbroken situationから決めて9-9同点!

ここまでUS DF #27 7 Shawn NadelenのDでの堅さが光る。Jr.に対しサイズで大きく劣るが、粘り強いフットワークと保守的ながら効果的なチェックで仕事をさせない。が、ここに来て遂にJrがゴリゴリに押し込みパスフェイクを一本入れてインサイドロールからねじ込み10-9でカナダ再度リード!

近い将来のスーパースター、Ned Crottyの凄さ

USは本来ATだが今回OFMFで出場しているNed Crottyがスパンッとダッジから鋭いシュートを突き刺し再度同点に!この人は間違いなく近い将来MLLを背負って立つスーパースターになると確信。この場面でチーム最年少で、自ら強い意志でstep upしチームを引っ張るリーダーシップ。この資質は教えられるものじゃない。試合終盤の大事な場面でこの落ち着き。大事な場面で普段の何倍も強い輝きを放つ。この手の活躍を彼はNCAAの準決勝、決勝で見せ続け、1年目のMLLで既に何度も見せている。Michael JordanにあってLeBron Jamesに無い「何か」を彼は持っていると感じさせる。

再び試合

USのオフェンスコートよく見るとAT 4枚に加え、本職はATだがUSではOF MFのCrotty。つまりAT 5枚という布陣。しかも残りのMF 1枚はPaul Rabil。こんな恐ろしい6枚セット見た事無い。USはなり振り構わず全てを掛け点を取りにいく姿勢。

Ned CrottyがShortyのCrowley相手にミスマッチを突いてXから倒れながら決め11-10で一点差リード!Nedは今年VirginiaのベストLong stick DFのKen Clausen相手に何度もこれを決めてきた訳で、いくらCrowleyが身体能力高いとは言えshort stickでは圧倒的に荷が重い。

やはり本来ATで機動力のあるNed Crottyを敢えてMFに入れるというHC Pressleyのチーム設計が大きく奏功している。これだけ実力が拮抗し、相手のlong stickが手強い状況において、この手のoffensive specialistの使い方が如何に試合を決定付け得るかを強く思い知らされた。(逆に言うとCanadaはここでShortyでもがっぷり四つでATを抑えられるだけのDefensive specialistがおらず、本来OFが得意なCrowleyが付かざるを得なかったのが痛かった。もっと言うとUSはそれを理解していてそこを付く布陣を選んだとも。最後の最後で詰め将棋の一手が勝負を分けることになろうとは。)

最後の3分は1点差を守るべくスピードをフルに生かしてUSが超保守的にボールキープ。そのまま試合終了まで守り切り、悲願の王者奪還。

振り返ると、過去の2チーム間の死闘の歴史に恥じない、極めてentertainingで熱い、素晴らしい試合だった。満足。

いたる@13期

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