2011年2月5日土曜日

NLL 2011 Game Review vol.04 Colorado Mammoth @Philadelphia Wings

(NLL観戦ガイド記事はこちら。NLLの裏側が見られるドキュメンタリーの紹介記事はこちら。)

第5戦。ホームでColorado Mammothとの再戦。今回もスタジアムのWells Fargo CenterのWingsベンチ裏で観戦。何と、ここに来てWingsの快進撃が止まらない。開幕以来2連敗でファンの心をべっこり凹ませた後、AwayのColorado, Bostonで2連勝。1戦目にホームでボコられたBoston Blazersには11-5で快勝。この日も地元ファンの前でPhillyオフェンスが爆発。点の取り合いのfist fight(殴り合い)の末、詰め寄られながらも持ち前の固いDで1点差を守り切り、勝利。何とこれで破竹の3連勝。会場で叫び過ぎて声が枯れた...


何が復調の要因か?
  1. DFのミスが修正され、連携がしっかりしてきた
  2. 引き続き、Goalie Brendan Millerのセーブが神過ぎる。現時点で80%超のセーブ率でリーグをリード
  3. オフェンスでは、怪我による2年のブランクから復帰したNooch(ヌーチ)ことAthan Iannucci(エイサン=アイアヌーチ)が本調子を取り戻しつつあり、得点を量産
  4. Westervelt, Mundorf, Boyle等アメリカ人Forward達のターンオーバーが確実に減り、ロールからweak handなどフィールド仕込みの個人技を中心としたオフェンスが決まり始めている
  5. Max Seibald, Kyle Sweeny, Paul Dawsonら、DFとTransitionの選手達が相手のターンオーバーを確実に速攻に結びつけ、高い確率で得点出来ている
ちなみに、前日の1月29日(金)の第4戦、Boston Blazers戦のハイライトLive streamでの試合のリプレイ。Bostonはこの試合から加わった、Caseyの弟Ryan Powellがまだ本調子ではなく、オフェンスが機能不全に陥ってしまっていた。

背景

Coloradoは#24 John Grant Jr.#6 Brian Langtryがキープレーヤー、控えには2010年Dukeを優勝に導いたNCAA MVPでUS代表の#4 Ned Crottyも。

Wingsはこれまで3試合の紹介で散々語って来たので割愛。一言で言うとTeam USA軍団 + G Miller + DF P Dawson + Nooch。今回から2009 Syracuse優勝メンバーで現MLL Denver OutlawsでOFMFとしてMundorf, Westerveltと同僚の#9 Dan Hardyが結構試合に登場し始めている(主にオフェンスの脇役/スクリーン要員としてだが)。ますますPhiladelphiaはAll American軍団の様相を呈している。


試合の見所

毎回漫然と見てもつまらんので、一回一回テーマを決めて見てみようと試みている。今回のテーマは、①「Vision(視野)」と②「スクリーンショットの重要性」。

①Vision

NLL/Indoorならではの特に重要な技術に、視野の広さと、コート上の状況を常時、瞬時に把握する認知力が挙げられる。フィールド以上に狭いスペースでDもタイト。シュートチャンス/フィードを投げ入れられるタイミングのウィンドウが一瞬しか無く、如何にそれを常時見ていられるかが肝になっている。今回の試合でそれが如実に出ていたのが:
  • Colorado 4点目のPower play (EMO)でのJohn Grant Jr. のトップからのアシストの視野。シュートのプレッシャーを掛けながらも、フィールド上の全員、4人の味方と5人のDを見て確実にチャンスを見つけてフィードしてくる。
  • EMOに限らず、Jr.がボールを持つたびにDに身を切るような緊張感が走る。スティックを左肩で背負い、Dを背中でブロックしながら、フィールド全体を見渡しながら、シュートも常に狙っている。真に危険な選手とはこういう選手のことだろう。
  • 3Q Colorado 8点目もそう。Jr.の視野。やはり常に全部見えてる。

②スクリーンショットの重要性

NLLを見始めて、「スペースのある場所でフリー(1 on 0の状況)を作ってシュートを打つ」、というフィールドラクロスの定石が必ずしも全てじゃないという事を嫌という程思い知らされつつある。

フィールドで一般的に言われるのは、相手DFをon/offボールでかわして、相手のいない場所でシュートを打つ、というシンプルな2次元の、ホワイトボード上でのX's and O'sの考え方。特にゴーリーのいないバスケだとこの考え方をする。が、NLLでは必ずしもそれだけではないことに気付かされる。「シュートを打『てる』状況」、及び「シュートを打つ『べき』状況」がフィーイルドと大きく異なっている。

まず、Longもおらず、ハーフコートの人数が5 on 5で1人少ない上、コートが小さくDFがコンパクトなNLLに於いては、シュートを「打てる」という意味では実はかなり近い距離から打つ事は比較的容易。

そして、どちらかと言うと重要なのが後者の「べき」の違い。どんなにフリーであっても、ゴールが小さくゴーリーが大きいNLLでは、例え近い距離であっても、ゴーリーにがっつり構えられてしまうと基本的に入らない。なので、例え完璧なシュートモーションでなくても、ゴーリーが見えない/準備出来ていない状況で意表を付いて打つ、という騙し/ずらしの技術が極めて重要になっており、相手や見方をGの視野の妨げに使うスクリーンショットが非常に重要なオフェンスの技術になっている

つまり、「より確率の高いシュートを打つ」を突き詰めた結果、返ってDFを前に置いた状況で打った方が、DFを抜いて/交わしてフリーで打つよりも上手く行く、という逆説的な現象が相当な頻度で起きている。

これまで見て来た感じ、WingsのNooch, BostonのCasey Powell, ColoradoのJohn Grant Jr.など、ミドルシュートでの得点が多い選手は例外無くここが極めて上手い。そして、彼らNLLの選手がMLLでも特に効果的にlong rangeの2 point shotを決めているのにはこの辺の理由があるんだと思う。
 
今回の試合でいくつか例を上げると、以下
  • Mammoth 1点目のLangtryのミドルシュート、対面のDが真っすぐ自分に向かってくる状況は相手をスクリーンに使う最大のチャンスという考え方。Dの肩越し、背中越しに狙った所を射抜く練習を繰り返したい。
  • Wings 2点目のNooch (Iannucci)のシュートも完全にそう。インドアを知り尽くした彼ならではのスクリーンショット。普通に相手を全く持って抜いてない状況で、単純にステップバックして間合いを取っただけで足下からスパッと打って得点。「え?こんなんで点取れちゃっていいの...?」単純にゴーリーが見えない/予想してない状況でシュートを打てばこんなにも簡単に得点出来てしまうという衝撃。
  • Coloradoの3点目、John Grant Jr.の得点も同じ。わざとDが距離を詰めに来るのを利用して軽く、瞬間的に、正確なシュートをスパッと打って決めて来る。
  • Wings 6点目、Westerveltの得点も同じく。ロールして、全く相手を抜いてない状況でそのまま振り抜きざまに打っちゃう。で、入っちゃう。

と言った辺り。是非注目してみて下さい。特にスクリーンショットに関してはフィールドラクロスでも相当通じる部分がある。これらのシュートを見て強く感じたのは、(少なくとも自分が知っている)日本のラクロス(特に学生ラクロス)はちょっと奇麗にフリーの状態で打つことに縛られ過ぎちゃってる部分が多いかな?という点。自分自身への反省/自戒も合わせて。

バスケやサッカー出身の選手は特にそこに固定観念が入っちゃってる気がする(僕自身バスケバックグラウンドだったのでそう感じる)。ラクロスの大きな違いは、ボールが小さいため、DFが前にいても全く持って問題無くシュートが打てる点。Dを背負って打つ「方がいい」という発想の違い。「捕われない/柔軟な」セルフコンセプト。それを何度も何度もトップレベルの選手が積極的に意思を込めて使っているのを見て、目から鱗が落ちる思いがした。

また、忘れてはならないのは、この技術、重要なのは相当程度練習と実践によって学習/習得/習慣化可能な、trainableな技術だということ。自分の前にパイロンを置いたり、そこにロングスティックをくっつけて高くしたり、かかし的なダミーを使ったりして、Dが前にいてもメットの脇や背中越し、足下から、躊躇無く鋭いシュートを狙い通りに打てる練習を繰り返せば、相当実戦的な得点力が身に付くはず。最後は恐らくテニスボールやソフトテニスのボールを使って、実際にダミーDFの人に(ちょっと厚着して貰って?)着いて貰って練習して磨き込めば、更にもう一歩実戦性が高まるはず。後は意識的に試合で使って感覚をシャープに研ぎ澄ませて行くだけ。

DFも慣れておらず、抜かせないことに必死でまさか打たれるとは思ってないケースも多いだろうし、ゴーリーもフィールドの感覚に慣れており、フリーで正対して打つのに比べると圧倒的に無防備で反応が遅れる。全力のシュートじゃなくても、スナップでスパッと打つシュートでも十分に得点出来るはず。こんなにROI(費用対効果)の高いオイシい未開拓領域はそうそう無い。


その他、個別の選手/プレーの注目点

1点目、Wings Max Seibaldの得点。Swim dodgeから左。完全にフィールドのプレー。インドアのDFは守り慣れてないため奇麗に決まっている。

Coloradoは今回は4番のNed Crottyを時々オフェンスで出して来ている。が、まだまだ機能出来てない。Dとの間合いが掴めずもろにボディチェックを喰らったり、パスが微妙にズレてたり、何とか活躍しなきゃと苦し紛れのシュート打ってがっつりセーブされたり。やはりフィールドからインドアへのアジャストには多少時間が掛かるものなんだろう。

Wings 9点目のNoochのロールからの得点。ゴール前でDを押し込んで、ロール後に敢えて持ち替えずにそのままインサイドの手で打つ動き。ラップチェックも防げる上ゴールに対してより角度を作れる。この身体の使い方はマスターしたい。

4Q Philly 12点目、Drew Westerveltの速攻からのダイブショットがカッコ良過ぎる。文字通り宙高くダイブ。スラムダンクを思わせる。この日会場で一番盛り上がったのはこれだろう。観客全員総立ち絶叫。

試合終了直前、Colorado #24 John Grant Jr.による最後の同点弾!残念ながらクリースバイオレーションで無効になってしまったが、クリース直前でそれまでの直線的にゴールに向かう動きから突然横に移動して完全にゴーリーを外して得点。スローを見た瞬間「何ーーー!?」と全身に鳥肌が立った。会場全体がカイジばりにザワザワザワッとなったプレー。これぞ世界最高峰。


結果と感想

前半に爆発的に貯金を作ったPhillyが結局逃げ切り1点差で勝利。やべえ。Wingsどんどん良くなってる。まずもってDFが異様に固い。加えてGのMillerが鉄壁。そしてOFはそこそこ点を取れ、速攻で点を取るという効率的なラクロスが出来ている。これで2連敗後の3連勝、一気にEastern Division最下位から2位に駆け上がった。この調子に行けばプレーオフはもちろん、優勝争いにすら絡んでくるんじゃないかという勢い。今後どうなる?地元民として全力で応援しようと思う。

Highlight


Livestreamでの試合中継のリプレイ
リンク

いたる@13期

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