2012年1月11日水曜日

The Street Stops Here(映画)

もういっちょ、クソ熱いドキュメンタリー映画の紹介。

アメリカのプロスポーツ、NBAを深く理解する上で、やはりNCAAの理解は欠かせない。そしてそれを理解するためには高校レベルを理解する必要がある。更には、社会経済学、文化としてアメリカのスポーツ、バスケットボールを支えている物を知ると、より深いレベルでいろんなものが見えてくる。

今回のは、2008年のドキュメンタリー、The Street Stops Here。

Trailer


モデルはNew York Cityの川を挟んだ向かい側にある、自由の女神を臨むNew JerseyにあるSt. Anthony高校の話。

30年間同校を率い、そのほとんどで州チャンピオンに導き、更に全米一位にランクされるチームを作り上げて来た高校バスケットボール界の伝説、Coach Hurleyとその選手たちの話。

アメリカの社会のリアルを描きつつ、グッとハートを掴む、琴線に触れる物があった映画の一つ。これもiTunes USアカウントでレンタル可能。

NJで補導員をしながら同校のコーチをするCoach Hurleyは、同校のバスケットボールを通じて貧困地域/ストリートで道を踏み外して行く若者達を育て、規律と自信を植え付け、大学に行かせる事でその貧困/劣悪な環境からの脱出を手助けしている。

選手たちは皆地元の劣悪な環境で育って来た子達。貧困者向けの団地(プロジェクト)出身で、父親は生んですぐに出て行った、逮捕された、母親はHIVで亡くなった、ドラッグ&アルコール中毒でどこかにいってしまった、周りの友人たちはギャングになってドラッグを売りさばき、銃で喧嘩をする。そんな環境にいる少年達ばかり。

彼らを同校に集め、日本でも最近見なくなったような文字通りの「鬼軍曹」スタイルで徹底的に鍛え上げる。遅刻したり、気の抜けたプレーをすれば即座に「Get out of the court, right now! Go home! Get out!!」と容赦なく帰らせる。チームプレーではなく自分勝手なプレーをすれば試合中でも厳しく叱責。連帯責任でシャトルラン100本。

その規律を通じて子供達が一人の大人として、選手として自立して行く。卒業生達は社会人として自立し、口を揃えて厳しく苦しかったコーチの教えによって人生を変えられた、救われたと感謝の言葉を口にする。

劣悪な環境から抜け出すために、ギャングになって刑務所に入るしかない人生から、貧困から抜け出すために、学校まで寒い中電車を乗り継いで1時間半掛けて通う選手も。アメリカには先進国でありながらこの筋金入りのハングリーさがある。

驚きなのはSt. Andrewsのその慎ましやかな環境。何と体育館が無く、地元の公共の体育館でのみ練習している。ウェイトトレーニングも器具が不足しているため、ボディウェイト/フリーウェイト中心。校舎も築100年以上で老朽化している上教室が不足しており、廊下や講堂やカフェテリアで授業が行われる。選手たちも靴は自前、ユニフォームも何度も洗濯され、色褪せ、すり減っている。遠征のバスもアメリカ特有のshabbyな黄色いスクールバス。日本の恵まれた高校トップチームとはかなり状況が違う。練習の最後のフィジカルトレーニングとして、全員でフロアを雑巾掛けでトップスピードで反復して往復。

そんな環境でやっている彼らがライバルのSt. Patrickを倒し、州チャンピオンに返り咲き、そして全米No. 1の座をつかみ取るまでの軌跡。

チームにいる何人かは正に今のNCAAの3-4年生として活躍している選手たち。試合でのプレーは堂々たる物。

恐らくバスケットボールのコーチとして金を稼ごうとすれば、大学や金のある私立高校に行っていくらでも稼げるはずなのに、敢えてお金のないSt. Anthony'sに安い給料で残り、ストリートの少年達を更生させ、成功させるために今の仕事を「ライフワーク」と言い切り、本職の引退後も続けるCoach Hurleyの生き様。

「バスケットボールをやる中で、練習で、試合で、そしてコートの外で、君たちは多くの困難、思い通りにならない事に直面する。でもそれと一個一個向き合って、一つ一つ何とか克服して行く事。そしてそれは結局は自分自身でしかやれないと言う事。最後は自己責任。甘えちゃダメだ。そしてそれは正に人生と同じなんだぞ」というロッカールームでのコーチの言葉が胸に残る。

印象に残るのは、チームがシーズン前半に11勝0敗で新聞で全米一位として紹介された記事をガードのTyshawn Taylor (現Kansas大4年)が嬉しそうに読んでるのを練習前に見て、練習でチーム全員を吐く程シャトルランで走らせ、「いいかお前ら?1位になったからって調子乗ってんのか?最後のchampionshipに勝つまでお前らはまだ何一つ成し遂げてねえんだぞ?そんな記事It means NOTHING!だろ!!」という言葉。

全米でベスト24人が選ばれるMcDonald All AmericanにMike Rosario (現Florida大3年)が試合中に自分勝手なプレーをし、それを諌めたアシスタントコーチに不服な態度を見せた瞬間、試合会場から出て行く様に命じ、ロッカールームで「お前、McDonald All Americanに選ばれたからって慢心してるのか?自分は凄いとか勘違いしてんのか?それがチームにとって何の価値があるんだ?何もねえだろ!?そんな奴はうちのチームにはいらねえよ。」と叱責。次の日の練習を中止し、チーム全員でどう対応するべきかを話し合わせた。結果Mikeは反省し、コーチに謝罪し、selfishだった自分を反省すると共に、チームの絆は深まる。

決して恵まれているとは言えない環境の中、自分たちの人生を変えるために、目を輝かせて、必死で頑張る選手たち。絶対俺たちが優勝する、歴史に名を刻む、という強い信念で突き進むチーム。そして、コートの外で見せる最高の笑顔。一生懸命を楽しむ姿。自分も見習いたいと強く思わされる。

全米最高の高校チームが、恵まれない貧困地域にある、資金難に喘ぐ学校で、地元の少年達の更生/救済に最も貢献している。決して、調子に乗った、派手で恵まれたflashyな金持ち学校ではなく、バスケで大学に行って何とか人生を変えたいとハングリーに努力する選手たち。何ともアメリカ的な事実だと感じる。この辺のハングリーさ、真剣さがこの国の根元にある力強さだと感じる事が多い。

ポジティブに、経験や環境や他人にネガティブな環境を投げずに、今に生きる、信じる、変化する、感謝する、楽しむ、そうやって一歩一歩進んで行く。そういう気持ちを新たにさせられると共に、スポーツの持つパワーと素晴らしさに改めて気付かせられた。

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