今シーズン3度目の戦い。レギュラーシーズン、ACCトーナメント準決勝はそれぞれDukeが勝利。
Dukeは全体3位シード。Marylandはシード無し。経験の面でも、タレントの面でもDukeが上と見られており、Dukeは優勝候補の筆頭としてここに勝って確実に決勝に駒を進めたい所。
共にDFの堅いチームで、特にMarylandは去年から準決勝決勝では明確にポゼッション重視/セットオフェンス主体のスローペースラクロスを標榜しており、今回も6-5等のロースコアな試合になると見られていた。
が、これが本当にNCAAラクロスの解らない所。まさかのMarylandによるアプセット。しかも16-10という大量得点での勝利。(
スコアボード)
試合は序盤からMarylandがリードし、試合をコントロールするも、Dukeも負けじと食らい付き2-3点差のリードで追い掛け続ける。4Qの途中まで2点差だったが、最後の10分でMarylandが突き放し、最後の5分でDukeがリスクを取ってプレスに出るが更にMDが追加で得点して完全決着。
会場で見ていたが、Marylandの圧巻のパフォーマンスに感銘を受けざるを得なかった。
何が起こったか。
1. Marylandのペースの使い分け
非常に面白い。ここまで完全にポゼッション重視、毎回ストーリングを受けるのが前提で、ゆーっくりゆーっくりPatientに回して相手DFを疲れさせて、最後に確実なシュートを決める、というのが定石だった。
が、今回は試合開始前にHC John Tillman氏が明確に「Dukeに勝つにはこれまでのスローペースではダメ。アップテンポでハイスコアで行かないと。自分たちは別にスローペースしか出来ない訳じゃなく、敢えてハイペースでやってなかっただけ。やろうと思ったら出来る」と言っており、Quintが「えーホントすかー?」となっていた。
が、実際にそれを体現して見せた。試合中もTillman氏が「とにかく積極的にガンガン打って行け!」との指示を繰り返し。チャンスがあればリスクを取ってガンガン抜きに行き、崩してシュートまで行く。で、実際にシュートが決まりまくって完全に流れを先に作ってしまった。
こういう、「全く違った二つのペースでプレー出来る。それを相手と状況に応じて使い分けられる」と言うのが強い。
2. Marylandのシュートが来まくってた
Statsを見ると解るが、実は得点以外の数字はほぼ互角。シュート数では29-32でDukeの方が上回っている。GB/FOでもDukeが勝っている。確実に勝敗を分けたのは、Marylandの16/29 = 55%という異様な決定率の高さ。
確かに決定率の高い状況を作れていたと言うのもあるが、それ以上にシュートの上手さが際立っていた。ぶっちゃけ運の要素も含めて異様にシュートが入っていた。
(試合後、元LoyolaとMarylandのHCでもあるDave Cottle氏が、「MarylandはDuke戦で異様にシュートが入っていた。普通はどんな強豪でも大体3割前後が平均。もし、Duke戦で3割の決定率だったらぶっちゃけ接戦だった。と言う事は、実際の実力以上のパフォーマンスが発揮されたと言う事。Loyolaとの対戦では油断出来ない」と発言している。)
特にトーナメントに入って驚異的に来ている#23 MF Drew Sniderが4得点の活躍。一歩抜いて鋭く振り抜いて決める。明らかにスイッチが入った状態。
3. MarylandのOF上手過ぎ
Maryland 2年目のHC John Tillman氏の手腕が再び発揮された。完璧過ぎる戦術。完璧過ぎる遂行力。
明らかにDukeのスライドが通常と違っていた。戦術的に意図的にやっていたのか、単純に気持ちが入っていなかったのか?スライドのカバーがイマイチ出来ていなかった。一歩崩して、スキップパス、または2-3本パスを繋いでフリーでバシッと決める局面が何回起こったか。
特にクリースでの2枚の上下左右へのスプリットが極めて上手い。OFコーチ/OFリーダーの選手は見て学べる点が極めて多い。
4. その土台にあるのはスティックスキルの正確さ
あとはもう一個土台になっているのは、やはりMaryland伝統の卓越したスティックスキル(日本で言う所のクロスワーク)。パスキャッチで絶対にミスをしないのは当然だが、常に相手の「どボックス」に正確な弾道でパスを投げて来る。従って、同じSet OFで崩すシチュエーションでも、2本、3本とパスを繋ぐ中でチームOFが加速して行き、確実にパスでDFを置き去りに出来ている点。
そしてフィニッシュではシューターが貰って即最高のフォームでシュートが打てる位置に投げられているため、高い成功率を生んでいる。
やはりこれも徹底したWall ball(壁打ち)の積み重ねの結果か。
5. MarylandのDFが個で勝った
今年のDukeの攻撃の要はやはり強力MF軍団。これに対してMDの強力DF MF & LSMが相当いい仕事をした。それなりに被弾したが、それでも尚最小限に留めた。
加えて、Close DF 3枚も非常にいい仕事をした。特に、今シーズン一気にスターダムに駆け上がった1年生DF #44 Goran Murray (Fr)が凄い。機動力、敏捷性、フットワークで付いて行く力、無駄なチェックを投げずに落ち着いて角度とポジショニングで守る力、落とした後に拾って爆発的にクリアする力。全ての面で1年生にしてNCAAトップクラス。今回も相手エースAT #31 Jordan Wolf (So)にほとんど何もさせなかった。1 on 1で抜ける感じが全くしない。加えて、見ていて感じるのは明らかに頭がいい/ラクロスIQが高い点。クリアやGBでも非常に落ち着いている。
OFならともかく、1年生でここまで活躍するClose DFは余り見た事が無い。9th grade(中3)からラクロスを始め、一気に上手くなってMaryland入り。今後まだ3年ある。今後数年間MDのDFは最強クラスで有り続けるだろう。MLLに入る頃にはどこまで完成されたプレーヤーになるのか想像も付かない。
6. チーム全体でのセルフイメージ最大化
またしてもベンチでの"Mosh pit"(狂乱の祭り)が炸裂。激アツパンクバンドのライブ最前列かと。会場で見て解ったが、ガチでボディにコンビネーションのパンチ入れにいったりしている。頭オカしい。が、クソ楽しい。そしてチームの勢いを一気に増幅させる。ベンチの雰囲気に関してはぶっちぎりで国内最強なのがMaryland。これ、真似したら絶対に楽しいし、強くなると感じる。
と言う感じ。
一方のDuke
Dukeは残念。2010年の優勝以来これで2年連続でACCを制しながら準決勝でMarylandに破れている。特に今年はプレシーズンで1位と評価するメディアも多く、シーズンが深まるに連れ優勝の期待が高まっていただけに残念。会場にいたDuke関係者も茫然自失。Marylandには2回勝ってたのに...
これほど隙の無いチームを作り、これほどレギュラーシーズン後半、トーナメント1-2回戦でぶっちぎった強さを発揮しても、それでも尚優勝出来ないという事実。如何にNCAAで優勝する事が難しいかを改めて実感させられた。
明らかにあったメンタルの差
もう一つ別の視点で考えてみる。
試合を通して、何となくDuke全体が元気が無いと言うか、覇気が無いようにも感じた。スライドも行けてないのか?シュートも結構外してしまったし、無駄なターンオーバーも目立った。Final 4への緊張、はたまた2度勝っているMarylandへの油断?何らかのメンタルが作用した事は間違い無い。
辻先生のスポーツ心理学のフレームワークで言う所の、「下意識(または本来の実力)とセルフイメージのうち、より小さい方がパフォーマンスを決する」または「心技体のうち、『技』と『体』が持つ実力に対し、『心』(メンタル/セルフイメージ)は『足し算』ではなく『掛け算』として働くので、本来の実力を0にも120にもし得る」という考え方に基づくと、明確に今回は下意識では互角かDukeの方が上だったはず。が、後者のセルフイメージで明らかにMarylandに分が有った。Dukeは「なんか上手くいかねーなー」のまま試合を終え、逆にMDはフルッフルにセルフイメージを最大化して、本来の実力を十二分に発揮出来ていた。
やはり準決勝決勝の拮抗した試合、大舞台での大事な試合、強豪同士の競った状況になって来ると、この辺のスキルやフィジカルや戦術を越えた、根元の部分のメンタル/「心」の強さとしなやかさ、正しい「揺らがない」精神状態の作り方/方法論をチームの習慣として持っているかどうかが大きな勝負の分かれ目になってくると感じる。
これで決勝はMaryland-Loyolaのご近所対決。現MLLのChesapeake BayhawksのDave Cottleヘッドコーチが立ち上げたLoyola、そしてそこでの成功を買われて赴任したMarylandでも彼が今のチームの土台を作り上げた。試合前のインタビューで、「ここまで来た2チームに言うことはない。黙って見るだけだ。」と発言していた。同時に「ここまでシーズンを見て来た中で、最初から最後まで、Loyolaがベストチームだった」と言っている。一方でMarylandには勢いがある。去年決勝で戦った経験と悔しさもある。実はレギュラーシーズンでは長らく対戦していないが、毎年開幕前に近所なので練習試合をやっている。そこではLoyolaが勝ちTillman氏が「開幕前時点で全く気付かれていないが、もしLoyolaが、本当に今日自分たちが感じたほど強いなら、間違い無くFinal 4に絡んで来る」と感じたと言う。そしてそれは当たっていたと言う事。今回はどっちが勝つか。
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