2011年3月29日火曜日

NCAA 2011 Game Review vol.12 North Carolina @Maryland

NCAA Lacrosse最高!の一言。やはり素晴らしい。毎週末本当に学びが多く、楽しめる試合を提供してくれる。後に述べるが、コーチ陣が戦術を考える上で学べる点が非常に多いと感じた。

ここ数週間、放映が続くUNCの試合。怪我で上級生を多く失い、一年生主体で結構大変な状況の中非常に良くやっており、段々感情移入というか、応援したい気持ちが強くなっって来ている。色が大好きなCarolina Blueってのもあるかも。

今回の試合は、同じACC (Atlantic Coast Conference)の強敵Maryland。MDは数週間前のGeorgetown戦を見た方はご存知の通り、超強力オフェンスのチーム。Run & Gunの速攻主体、プレスライド、プレスディフェンスでガンガントランジッションし、攻撃の手を緩めず点を取り続ける大量得点で相手を倒す、というのが得意のスタイル。ここまで同じくDukeに負け、今回は負けられない試合。皆さんご存知AT #1 Big CatことGrant Catalino#27 Ryan Youngら強力4年生AT陣に加え、鬼神の如き存在感、GBとトランジッション、その後のShortyを上回る攻撃力で点を取りまくりの#37 LSM Brian Farrellなどを擁する。またここに来てRed-shirt FreshmanのGoalie、Philadelphia出身で、'10US代表 Brian Dougherty (Doc)の弟子、#31 Niko Amatoが一年生とは思えぬ太々しさと存在感を放っている。1 on 1の強さ、クリアパスの思い切りなど、Cuseの4年生Gallowayを連想させる。

UNCはここまで急激にチームとして形を為して来ているとは言え、やはり一年生主体のチーム。戦前の予想としてはやはりMD有利の見方が強かった。

試合

試合が始まり最初の10分間はその予想の通りに。Face offを支配し、速攻の連続でMDが立て続けに4得点。あー、やっぱUNCきちーかー、と溜め息が出た所から、ガラリと展開が変わる。

UNCがZoneに切り替え、トランジッションを抑えてスローペースにし、セットオフェンスの戦いに持ち込む。そこから一気にTerpsが攻めあぐね始める。陣形を切り裂き、崩せるMFのdodgerがいないという弱みが顕著に出て、ただパスを回すだけでほとんど崩せないというMarylandの隠れた弱みが完全に露呈。そこから3Q途中まで、UNC 8連続得点、MD 0得点の完全なワンサイドゲームに。最後までMDは展開を変えられず、一方のUNCは試合ごとに存在感を高める一年生軍団や#20 Jimmy Dunsterらが本来の力を遺憾なく発揮し、11-6で危なげなく勝利。

恐らくUNC HCのJoe Breschiらスタッフが事前にMDを徹底スカウティングし、Zoneが有効であることを見抜き、徹底してGame planを作り込んだ上で対策を練って来たんだろう。MDはSyracuseと同様、やはり得意のトランジッション/Run & Gunを封じられると弱い。この試合を見て、今後リーグ戦からプレーオフに掛けて、間違い無くZoneを敷いて来るチームが増えて来るはず。Zone対策が緊急課題に。攻撃力のあるチームは、優勝を目指す上でやはりこの壁をどこかで乗り越えなくては行けないんだろう。Zoneの克服、速い展開だけでなく、遅い展開でも相手をねじ伏せられるだけのPatienceと柔軟さ。去年の王者Dukeにはそれが出来ていた。裏を返すと、先週のHopkins-Syracuseに続き、Zone DFが勝つ上で如何に重要な定石の戦略になっているかを理解させてくれる試合だった。

ILのスコアボード

印象に残った点

UNCの1年生がとにかく凄い。つか、むしろ、ほとんど一年生がこのチームを回してる。何が凄いって、メンタル。もちろん、手元の技術も確かだし、足下のフィジカルもしっかりしている。が、1年目のNCAA Div 1のリーグ戦の大事な試合で、普通の選手たちだったらグラングランに揺らいでセルフイメージ小さくなっちゃってもおかしくない状況。そんな中で、確実に今を見て、自分のやるべき事に集中し、淡々と全力を尽くすというモードで仕事を出来ている。Sports Psychologyの教科書の様な心の状態を維持している。特に、最初に4点先取された時点でのUNCのベンチを見ても、あまり悲壮感や揺らぎが感じられなかった。「ま、たまたまポンポンっとやられたけど、予想された事じゃね?試合前に決めたゲームプラン通りにやれば絶対行けるから、大丈夫っしょ。淡々とやろうぜ。」的な落ち着きを感じられた。HC Joe Breschiらコーチ陣のコーチ力による部分も大きいと思うが。

ピンポイントで見ていて面白かったのが、Face off。ここまで1年生としては驚異的な強さ(65%)を誇って来たUNC #25 FOGO RG Keenanに対し、MDが明確に対策を立てて来て、前半は完全に沈黙させることに成功していた。注目は、FO同士の一対一ではほとんどKeenanが勝っているのに、MDがそれを完全に予測し、Wing二人、特にLSMがKeenanが掻き出す左前のスポットに直接ボールを拾いに行っている/または拾った直後のKeenanをマンで潰しに行っている点。なるほど、仮にFOer対決で負けても3対3で勝てるのね、いやむしろ確実に相手が掻き出す所が解っていれば、優位にすら立てるのね、という好例。後半はKeenanも修正してまた勝ち始めたが。Keenanも今回の経験をフィードバックして、さらに掻き出しのオプションを広げたり、Wingをより見られるようになってくるだろう。まあ、今まで高校生だった訳ですから...あと4年間掛けて最強FOGO伝説を築いて行く上での序章に過ぎない、ってことなんだろう。

あとは、やっぱり、またしても1年#34 AT Nicky Galasso。もうAll Americanは当然、下手したら1st teamに入ってくるんじゃね?ぐらいの大黒柱っぷり。何が凄いって、その完成度。フィードやダッジも凄いが、今回はLong rangeのStanding shotのスナイパーっぷりも見せている。解説のPaul Carcaterraが、1年生でここまで完成されていて、且つチームを引っ張れるATは2001年SyracuseのMikey Powell以来とコメントしていたが、確かにその通り。

Long Islandの高校時代に、超コンペティティブでレベルの高いLIの高校リーグに有りながら、下級生時代からエースとして活躍し、高校通算500ポイント(Goal/Assistの双方で200ポイント以上)を達成している。ラクロス一家で4人の兄に囲まれて育ったため、小さい頃から質の高いラクロスに文字通りどっぷり浸かって育って来たらしい(見ているとラクロス界にはこのパターンが非常に多い。兄に憧れて/鍛えられて末っ子が天才になるパターン。ロナウジーニョとかもそうか)。彼が完全にオフェンスを組み立てている。しかも超淡々と落ち着いてやっている。単純にガキの頃からやって来たことの延長という感じで。開幕前はUNCはBitterのチーム、と言われていたのが、今やGalassoのチームになってしまった。

UNCのリクルーティング力

にしてもしかし、UNC...恐るべし...既にDiv 1のトップでやれてるこの1年生軍団を擁し、あとまだ4年あるぜって話だ...

リクルーティング力に定評のあるHC Joe Breschi(ブレッシ)とそのスタッフ達。今年の1年生は文句無くNCAA最強。更に来年入学してくる学年も、Billy Bitterの弟で同じくDeerfield Academy出身のJimmy Bitterら、強力なメンツが入学してくるらしい。聴く所によると、その次の学年、そのまた次の学年でも結構核になるいい選手を確保し始めていると言う。いいか悪いかは別として、リクルーティングでかなりの部分が決まってしまうこのゲーム。このBreschiのリクルーティング力の高さは間違い無く強力なedgeになっている。何でこんなにいい選手集められるんだろうか。非常に興味がある。徹底した情報収集とネットワークは勿論だが、恐らく生徒やその家族をinspireするプレゼン力と言うか、人間力や人柄とか、そういう物なんじゃないかと想像する。

見ていて感じるのは、只単に能力が高いスーパースター選手を集めているだけではなく、明らかに、チームの価値に共感し、チームの戦術スキームやコンセプトを深く理解し、チームの為に自分を捨てて貢献出来る、matureでラクロスIQが高い選手を集めている点スター軍団だが皆我がままでバラバラで、チームとしてcohesion/機能しない、みたいな部分が少ないように見える。(ちと失礼だが、Shamel Brattonとかもしかしたらイマイチフィットしないかもなという気がする…)

それでいて、Hopkinsほどガチガチにシステムでプレーしている感じでもなく、一定のセオリーの下、ある程度自由に柔軟にやっているようにも見える。

今後数年のUNCはHopkinsと並んで非常に楽しみなチーム。


シーズンを通しての成長

にしても、ここ数試合のUNCやHopkinsの変化/成長っぷりには非常にいろんなことを考えさせられる。例えば、初期にOhio Stateに何も出来ずにやられたUNCや、Princetonに手も足も出なかったHopkinsが、シーズンの中盤でここまでグイッとターンアラウンドすることを予想していた人も少なかった気がする。

個人的に示唆深いなと思ったのが、
  • NCAAのDiv 1の競争の熾烈さ。逆に見れば、それだけ中堅校/下位校のレベルが高く、トップ校であってもシーズン序盤に経験不足だったりチーム戦略が固まってなかったりすると簡単に足下を掬われてしまうという事
  • NCAAほどのレベルであっても、且つ強豪校であっても、シーズン初期はバタバタするもの、という事実。まあ、考えてみればそうだ。秋に数ヶ月練習するとは言え、年が明けてすぐにリーグ戦が始まる。かなりぶっつけ本番に近い形。長い公式戦を通じて組織や戦術を作って行くという形にならざるを得ない
  • 高校から大学へのギャップと、アジャストの速さ。結果としてシーズン途中で急激に主力になってくる一年生の存在。この点、非常に日本と違って面白い。ジュニア〜高校のラクロスが分厚く存在し、そこから推薦という形である程度完成された選手を取って来るが故の現象。UNCなど典型だが、特に一年生が主力に入って来た場合、見ているとやはり初期は高校とのレベルの違いに苦しむ。が、一方で、プレーヤーとしての基盤はある程度出来ているため、そこがアジャストされ始めると、数ヶ月であっという間に活躍出来るレベルになってくる選手が一部存在
  • で、それを踏まえての、シーズンを通したチームマネジメント/プロジェクトマネジメントが必要という点。ここが上手いのがDukeのJohn Danowskiだろう。初期はある程度細かく転んでも構わない。ただ、初期に個人技や身体作り、基礎戦術と言った土台をしっかり固めることに集中し、後半そこに花を咲かせ、確実にプレーオフにピークを持って来る。初期に全勝街道を突っ走っても後半失速してプレーオフの予選で負けたら意味ないので。完全に準備してヨーイドン!じゃなく、「走りながら考える」「戦いながら成長する」スタイル。
  • また、メンタルの重要さ。年間十数試合をこなし、週に2試合ある週も。しかもアウェイはバスや飛行機での長旅。一つくらいアプセットを喰らってもメンタルに揺らぐ事無く、すぐに切り替えて目の前の試合を一つ一つ全力でこなして行くことの重要さ。
  • それらを踏まえると、もしかすると敢えて逆説的に(反論を承知で敢えて乱暴に)大胆な事を言うと、ぶっちゃけシーズン途中で何回か負けといた方が結果後から振り返るといいんじゃない?って気ぃすらしなくもない。負ける事で謙虚な自省が促され、self-awarenessが研ぎ澄まされ、技術/戦術の修正が図られ、気持ち的にも引き締まった状態でプレーオフに臨める。逆に負けを経験しておかないと、それだけ強いってのはいい事だが、いざ負けそうになった時に生じる揺らぎが大きくなってしまう。去年のSyracuseはその気を若干感じた。今年は負ける一歩手前の瀬戸際を歩く接戦をもう四度も経験してるのでその心配は無いかも知れないが。(これに関しては一敗が重い関東学生リーグには当てはまらないかな…まあ、最悪一試合くらい落としてもプレーオフで勝ちゃいいって意味では同じか。)まー、こりゃあ結果論だし、チームからすりゃそりゃ全て勝ちにいくべきなのであんましmake senseしないな。流して下さいな。
と言った辺り、日本の学生チームが見ても学べる点が多いなと感じた。


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