2012年4月9日月曜日

"FOGO"というポジション

2011年1月3日

引き続き、クリスマス休暇中にまとめて書いときたかったネタシリーズ。最近、NCAAやMLLをフォローする中で、日本にいた頃に聴いた事の無かった言葉をよく耳にする。"FOGO"。発音は「フォウゴウ」。日本語カタカナ発音だと「フォーゴー」。

FOGOとは

"Face-off, get-off"。Face offをやって終わったらとっととget-off(退場/交代)する、つまり、Face-off専門のMFFOMFということ。"face off specialist"とか"face-off middie"って5-6音節あって長ったらしいし...FOGOの方が確かに手っ取り早い。且つ、「get off」と言い切ることにより、本当にface-offのみにフォーカスする語感がより強い。

進む専門化の流れ

恐らく東大というか日本のラクロス全般でも同じ流れにあるんじゃないかと想像するが、ことベンチに入れる人数が多い(と言うか、ルール上制限が無い)NCAAでは、再三過去の記事でも述べて来た通り、分業化が激しく進んでいる。加えて、stickの進化により昔に比べてパスミス/キャッチミス、ボールダウンによるturn overが大幅に減り、ポゼッションの意味が加速度的に増す中で、face-offの持つ意味がかつて無く重くなりつつあり、face-offerはほぼ専門家として特化させるという考え方がどんどん強くなっている。

人数制限の少ない(19人)MLLですら、純粋なFOGOを一人は入れている。また、NCAAのリクルーティングでも、既に純粋なFOGOとしてのリクルーティングが行われており、恐らくかなり若い年代からFace off専門家としての人生を歩み始めている選手が結構出て来ている。そして、集中することでよりプロ意識/職人意識/プライドが高まり、更に技術が磨かれるという流れが生まれつつ有る。高いレベルになるほど、「専業じゃないと勝てない」という状況が生まれつつ有る。

Lacrosseの独特なルールが生む特殊な職業

そもそも、サッカー、バスケ、アメフト、ラグビー、ほとんど全ての団体球技に於いて、得点後は相手にボールを与えることで均衡を促す作りになっている。バレーボール、テニス、卓球、野球では交互にサーブ権/攻撃権を交代することで公平に機会を与える。そんな中ラクロスのみ再度ニュートラルな状況から。極端な話、face-offを支配し続ければ、相手に攻撃の機会を文字通り「全く」与える事なく試合を終えられる、という極めて不均衡/不公平な結果を生める。強者がより富むという歪み。face-offの重要さはこのスポーツのユニークなルールが生んだ必然とも言える。

(例えば、バスケのルールが「得点ごとにジャンプボールで再開」だったとすると、間違い無く"ジャンプボールスペシャリスト"というポジションが生まれてくる/センターのクライテリアでジャンプボール力が超重要になってくるだろう)

Next generation FOGO代表R.G. Keenan

今年UNC (North Carolina)に入学したR.G. Keenanなどは高校時代からかなり有名なFOGOで、今シーズンは1年生で先発すると目されており、人によっては開幕前の現時点で既にNCAA最強face offerと呼ぶ人もいる。早くも2014年のWLCでチームUSAのface-offの一枚目になるとも言われている。

同じく2010年US代表FOGOで、Delaware大学を躍進させてFOGO新時代を築いたAlex Smithが後継者として認めると発言していた。(そして、1年目からDiv 1でボロ勝ちしないとぶっとばす、とプレッシャーを掛けていた...)

(2012年4月に追記。その後2011年のシーズンは1年生としてStarting FOGOとして定着。6割の勝率でチームの勝敗を左右し続け、Third Team All Americanに選出。大きな期待を上回る活躍を見せた。2012年の今年も2年生として引き続きチームの勝敗に決定的な重要な要素になっており、ここまで4回ACC Defensive Player of the Weekに選ばれている。)

フィールドプレーヤーと異なるrequired skill set

純粋にFace-offだけを完全に切り取って見た場合、それ以外のラクロスのフィールドプレーヤーとは間違い無く違うスペック/クライテリアが求められる。もちろんボールを拾った後にfast breakで点を取りに行かなくてはいけないし、逆にそのままDをやらなくてはいけないので、最低限のプレーは要求されるが、極端な話、何でもこなせるがFace-offはまあまあの選手と、FOで10-20%多く勝てるが他はからっきしだめなFOGOを比べた場合、喜んで後者を取るという発想がかなり出始めているんだと思う。

例えば、(数字は完全に作るが)スティックや戦術の変化によりポゼッションの重要性が15%増し、換算するとface off一本が得失点0.2点分の重さから、0.3点分の重さに変わる、みたいなことが起こっているはずで、それに伴いface offの勝率10%が持つ意味が得点換算で1.2点分増える、結果としてシーズンを通しての試合の勝率見合いで5%分得する、みたいな経済性が働いていることになる。(統計取って前提条件置いて試算すれば簡単に試算出来るはず。)

選手個々人のキャリア戦略の変化

そしてそれを選手個々人のcareer development戦略に落とし込んで行った時に、face-offの持つ勝利への貢献度シェアと、自分の能力の凸凹と、今年のチームの他の選手たちの強み弱み、及びそれぞれの伸びしろを考えると、フィールドプレーヤーとしての成長は捨てて、FOGOとしての人生に掛けた方が、試合に出られる可能性は40%高く、4年間トータルのラクロス選手としての幸せ度の期待収益は80%高い、みたいな計算が何人かの選手にとって成り立ち始めているんだと思う。これはhealthyなmicroeconomics/自由競争のメカニズムだし、選手にとってもチームにとっても最適化に繋がるケースが多い気がする。単純にお互いにニーズがあってやってる話なので。

(もちろんFOGOの選手もフィールドプレーヤーとしてのスキルを磨く必要があるし、更にFOGOが重要になり、より多くの選手がFOGOに殺到し、face-offでの競争が完全に行き着くところまで行って飽和すれば、そこから先は更にface-offだけではなくMFとしてどれだけ上手いかの勝負になる、という競争のメカニズムの変化がいずれ起こると思われる。また、そもそも出場出来る椅子の数が多く、またATにもDFにもトランスファーし易い純粋なMFに比べて潰しが効きにくいので、キャリアとしてのリスクは高まる。まあ、そもそもface-offが好きかどうか、という好みの問題もあるし、多分に向き不向きのある技術なのでそんなextremeな状況にはならないとは思うが。)

いずれにせよ、この辺の、技術やインフラの進化による経済性の変化と競争のルールの変化の話、非常に面白い。そういう環境変化を読み切って先手先手を打てるチームや個人が勝って行くんだろう。

リクルーティング戦略にも影響

また、どこの話だったか忘れたが(確かUNCかDukeだった気が)、以前Quintが、某チームがFOGOのためだけに、レスリングの重量級の選手だったか、Footballのラインの選手を勧誘しようとしている、という発言をしていたが、納得出来る。

どうでしょ、東大の勧誘でも、例えばWarriorsがラインとして必死で採ろうとする素材をFOGOで一芸採用で一本釣りしにいくってのは。「ラインやって一日5食食わされてて120キロになるより俄然目立てるし合コンでモテるぜ」的な。

ラグビーのフォワード出身者だけど東大のラグビー部ではやりたくない子とか、土佐のわんぱく相撲で横綱でした、とか、柔道部の重量級出身で、スタミナはゼロでしたが、速さと度胸は誰にも負けなかったっす、みたいな。後は陸上のハンマー投げ/砲丸投げ出身者で高い競技レベルにあった子とか。要は、敏捷性が高くて勝負強い巨漢な子、いないっすかね。

ポイントは、持久力や脚の速さ、球技系の器用さ等は不要ってとこ。「自分脚遅いんでラクロスは向いてないと思うっす」みたいなでかくてパワーある子いたら「そんな君にお勧めのポジションが...」と一芸採用出来ちゃうっていう。

FOGO関連のインストラクション

ついでに、いくつかFOGO関連の練習/講座のリンク。独自の技術体系が深く深く広がっていて、めっさおもろい...最近この手のFOGO CampやFOGO clinicが増えてきている。

●実戦的なdrillとwarm-up。コーチも指摘している通り、日常生活ではもちろん、通常のラクロスの動きではないため、徹底して反復練習し、マッスルメモリーを刷り込むことが大事とのこと。


●Boston CannonsのFOGO, Chris Eckの講座

●同じくEck主催の塾、Eck's factorの講座
- Drill
●何でもこなせる天才プレーヤー、元HopkinsのKyle Harrisonによるレッスン
NCAA時代と違い、MLLはもはや専門職じゃないと勝てないので彼自身はMLLではやらなくなってしまったとのこと。NCAAでもそうなるのは時間の問題じゃないだろうか。

この動画もなかなか衝撃的。Alex Smithによる"How to bake"すなわち、ヘッドをオーブンで熱し(焼き)、よりface offに有利な形に変形させる裏技。要はNCAAルールブックに適合するようスティックの上部の幅を保ちながら、下を限界まで絞る。350°F(Fahrenheit. 摂氏だと180℃くらい)で5分とのこと。もちろん日米でオーブンのスペックが違うだろうから、不要なヘッドで試しながらやった方がいいとは思うが。


FOGO Camp

US最強Face offerのAlex Smithが主催するFOGO Camp。全米のFOGO志願者を集めて彼の職人技を伝承している。前述のRG Keenanも出身者。(リンク)東大でもしFOGOを極めたい猛者がいたら、参加してみては。日本からの参加なんて絶対喜ばれるはず。今からフィールドプレーヤーとしての日本のラクロスのパイオニアになるのは難しいが(既に25年経ってるので)、FOGOに絞って突き抜ければ今からでも第一人者になれるはず。

こちらはNational Lacrosse ConventionのAlex SmithのプレゼンとQ&A。この人マジでかなりハードコアなオタクだ(いい意味で)。かなり細かいテクをゴリッゴリに語っている。ホントFOGO極めたい人以外見る必要ゼロだと思うが...にしてもロジカルにむっちゃくちゃいろいろ考えて技術体系を蓄積させてる事が良く解る。詳しくない僕にとっては見てるだけで知的好奇心が刺激される。ほとんどこれ一つで独立したスポーツになっている。達成動機が強く、trial and errorを通じて頭を使いながら継続的に努力をする能力のある選手には向いてる領域な気がする。

いたる@13期

2 件のコメント:

  1. いつも読ませていただいてるラクロスプレイヤーです。

    ちょっと気になったんですが、一つ目の動画は現在Denver Outlawsに所属するShane Walterhoeferという選手だと思います。もちろん彼もNCAAでトップの実力を持つface-offerでしたが。

    それにしてもそんな高校生がいるんですね。僕もface-offerなので、実力が見れるのが楽しみです。

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  2. コメント/ご指摘有り難う御座います。確かに。大変失礼しました!彼のUNCでの映像は3月のシーズン開始後に見られると思うので、見つけ次第アップさせて頂きますね。

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